[24] 忍者

 その「にゃああああああああああああ!」というのは猫の鳴き声を文字で表した、わけではなくてどこかの誰かがそんな風な叫び声を上げていたのを表現してみた。そのどこかの誰かは私たちの方に近づいているようで、だんだんと音が大きく高くなっていった。

 あれ? 低くなってくんだっけ? 確かドップラー効果とかいうやつ。学校でならった気がするけどよく覚えてない。近づいてきたら高くなって遠ざかったら低くなるんじゃなかったかなあ、多分。今度のテストの範囲じゃないしいいや。必要になったらその時また勉強しよう。

 状況がよくわかんなかったのでその声の方を向いて立ち止まる。一応何かあってもすぐに動けるよう心構えはしておく。武器は構えたりしない。それで敵意ありと思われるのも面倒だから。


 茂みを突き破って現れたのは小柄な少女。私よりもクレハよりもさらに一回り小さい。リアルなら小学生の体形。頭以外は全身赤の忍装束に身を包む。森の中ですごく目立つ、忍びなのに。まあゲーム的にはそれでおっけーなんだろう。茶のショートカットで同じ色をした猫耳がぴょこぴょこ動く。

 正面からばっちり目が合う。髪より若干赤みの強い元気そうなつり目、その時は端に涙を浮かべていたけど。

「助けてくださああああああい!」

 なお叫びながら猫耳忍者少女は走り抜けていく。

 その後ろからはかちゃかちゃかちゃと、木彫りの兵士が現れた。樹装木兵、ダンジョンにいたおもちゃ兵士のバリエーション。耐久力は落ちてるけどその分機動性が上がっている。それが3体。


 どうしようかと考えつつクレハに視線を送る。

「同数ならこっちが有利かな」

 端的な答え。こういう時つきあいが長いと便利でいい。言葉にしなくても必要なことを教えてくれる。

 木兵が私の横を通り過ぎていく。両腕に剣をつかんだ。一番後ろを走っていく1体の背中へと振り向きざまに一撃を叩き込んだ。

「助けてあげる。挟み撃ちにするからあんたも戦いなさい」


 呼びかけに答えて猫忍者はくるりと軽い身のこなしで振り返った。その両手には私と同じようにそれぞれ短剣が握られている。

「わかりました!」

 木兵たちも私たちを敵と認識したのだろう、間に立って陣形を組む。数を合わせるように、2体はこちらに正面を向けて、1体は背中を向けた。

 猫忍者の力量はわからない。けれどもここに来てるということは私たちと似たようなもんだろう。最悪まったくあてにならなくてもどうにかなる、というところまでクレハの判断には含まれてると思う。慎重すぎる部分もあるがなんだかんだクレハの読みは当たる。

 本人には言わないし、別に信頼してるってわけでもないし、ただ使えるってだけなんだけど。


 さっき手痛い一撃を与えたやつに狙いを絞る。一気に距離を詰めて右手の剣で切り払う、と思っていたが相手は左に盾を構えてる。邪魔だ。予定変更。勢いのまま左足を軸にローキックを放つ。いい感触。やっぱり軽量級には有効だ。

 目の前の木兵はよろけて姿勢を崩す。その隙を逃がすほど私はやさしくない。左手の剣を思いっきり振り上げる。視界の端に別の木兵が動いているのが見える。私の攻撃後を狙って近づいてくる。別に忘れてたわけじゃない、きちんと覚えている。


 ただそこまで注意を払ってなくて大丈夫と思ってただけだ。私は1人で戦ってるわけじゃないから。

 火球がまっすぐに飛んでくる。クリーンヒット、綺麗に頭を撃ち抜かれて木兵は倒れた。なかなかやるじゃないの。

 あとで聞いたことだけど木に対して火は属性的に有利なんだそうだ。わかりやすく言うとダメージが入りやすい。私は誰が相手でも剣で殴るしかできないから、そういう細かいのどうでもいい。

 私の方も目の前で姿勢を崩して隙だらけの木兵を斜めに切り捨てる。最初の一撃と合わせて十分なダメージ量、あっさりとその場に崩れ落ちた。


 残りは猫忍者少女が相手してる1体。息を整えつつそちらに視線を移す。どうやら苦戦はしてない様子。

 負けそうだったら手を貸そうと思ってたけど、そうじゃないので私は剣を腰に片付けてのんびり観戦モードに入る。戦い方はやっぱり私と同じで双剣使い。あっちの方が一撃は軽いけどその分、手数で勝負してる感じ。飛んだり跳ねたり忙しい。動きに無駄が多い気がする。

 ほどなく戦いは猫耳忍者少女の勝利に終わった。

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