[13] 苦戦

 ちょこまかとうっとうしい! ダメージ覚悟で仕掛けたのになかなか落ちない。

 数が多すぎる。

 燈架と2人がかりで相手したことはあったけど、1人だけだとこの数は捌ききれない。瀕死に追い込んでも他のが襲ってきてその間に瀕死の1匹に回復されてキリがない。

 クレハも手伝ってくれてるが、遠距離からの射撃魔法では小さな的に当たりづらい。結局のところ私ががんばるしかないのだ。


 そんな状況なのに空振り、空振り、また空振り。私のストレスは頂点に達した。

「あーもう! 面倒くさい! 死ね、全員死ね!」

 おそらくそうやってぶちぎれて、冷静さを欠いたのが原因だったのだろう。宝箱の方に近づきすぎた。

 かちりと何かの作動する音が足元で鳴った。

 さっき解除しようとしたトラップがあったんだった。その瞬間に思い出したがもう遅い。

 右足の設地感がなくなる。反射的に足元を見ればそのあたりだけ床がへこんでいる。


 単純な罠。ダメージもない、体勢を崩すだけのもの。

 普通の状態であればなんてことのない罠。けれども今は戦闘中、隙を見せればコウモリたちは一斉に襲い掛かってくる。

「リィナちゃん!」

 クレハが叫ぶのが聞こえる。自分の体が前のめりに倒れてくのがわかった。

 見えないところからコウモリが接近してくる。まずいかも、HP残ってたっけ?

 何か手はないか。自分にできることをひとつひとつ思い出す。思いつく。しかし本当にそれが成立するか。わからない。いいや。やるだけやってみよう!


「ウインドエッジ!」

 発動させながら右手の短剣を大きく振りぬいた。コウモリに当たった感触はない。

 それでいい。多分なんとかなったはず。揺れる青い髪がそれを教えてくれている。


 前のめりの姿勢のままコウモリの群れに突っ込んで、そしてそのまま走り抜けた。

 体をひねって半回転。

 思った通り! ウインドエッジで強化した斬撃、それによって発生した風圧にさらされて、コウモリたちは空中で姿勢を乱している。


 その隙を逃す私じゃなかった。ちょこまか動くようなら面倒だが、動かなければ小さいだけ。

 両手の双剣を振り下ろせば十字の軌跡を描く。手ごたえ十分。

 コウモリたちは地に落ちて光の粒となって消えた。

「終わった!」すかさず燈架に報告。

「早く助けてくれ! もうそんなにもたない」

「リィナちゃんHP少なくなってる、これ飲んで」

 クレハから回復薬を受けとりながら、再び駆け抜ける。


 残りは消化試合でしっかりと態勢が整えばおもちゃ兵士なんて今さら負ける相手ではなかった。

 アイテムはそれなりに消費したけどなんとか苦境を切り抜けられた。

 ちなみに例の宝箱の中に入ってたのはただのHP回復ポーションで、使った分を回収できたと考えればよかったんだけど、あれだけ苦労したのになあという気分にちょっとなった。


 その後は無事、次の層へ進む魔法陣を見つける。また立札があって『次が最終層です。ボスが待ち構えているのできちんと準備してから進みましょう』と書かれていた。

 私たちは万全の状態でボスに挑んだ。

 どうなったのか? 結果だけ言おう――全滅した。

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