[6] ユーニス

 西の門から出て道沿いに歩けばすぐ左手に川が見えてくる。

 釣りをしている人がちらほらいる。のんきに釣り糸を垂れている。BBQをやるにもよさそうな感じだ。

 もうちょっと歩いてあんまり人のいなさそうな所を探した。


 河原に降りてコンロを組み立てる。

 炭をセットしたところで火種がないことが判明する。だれもそれに気づいてなかったのか、間が抜けている。

 クレハが魔法で火付けすることになった。魔法の火って人体に有害な成分とか含まれてるんじゃないかと不安に思ったけど火自体は普通のと変わらないから多分大丈夫だよと言われた。


 なんやかんやトラブルはあったけどビッグボアの肉が焼きあがる。

 あたり一面に香ばしい匂いが広がる。いつもなら服に匂いがつくのが気になるところだがまったく気にしなくていい点がすばらしい。

 はじめて食べた猪の肉はなんかこうワイルドな豚って感じの味わいだった。

 ゲームの中での話だからほんとはどうなんだかそれはちょっと知らない。


「野菜もちゃんと食えよ」言いながら燈架が私の皿にタマネギとピーマンをのせてくる。

「ゲームの中でぐらい好きなもの食べたっていいじゃないの」

「え、お昼もチョココロネとメロンパンだったでしょ」クレハは余計なことしか言わない。

「リアルの話持ち出すのはだめでしょうが。よくわかんないけどルール違反よ。通報してやる」

「いやまあ仲間内だしそこまでせんでいいだろ」燈架がそう言うのでしょうがないから許してあげることにした。私は心が広い。


 幸いなことに魔物は現れなかったのだけれど別の問題が発生した。

 ビッグボアの肉が余った。思ったより量が多かったのだ。

 このゲームは満腹感までは再現していないけれど限度が近づいてくると警告がでてくる。

 なんでも限界を超えるとバッドステータス食べ過ぎで動きが鈍くなるんだそうだ。

 ちなみに食事の細かい効果については現在検証がすすんでないという話。

 みんなそんなに気にしていない。だいたいの人は空腹だとよくないよねぐらいの認識らしい。

 クレハがローグライクどうこう言ってたけど細かいところは忘れた。そういう人のわからない専門用語っぽい言葉を使うあたり説明が下手だと思う。


 捨てるのももったいないので燈架が知り合いを呼ぶことになった。

 けもみみワールドオンラインをすすめてくれた人だという。調べたらちょうどログインしてたそうだ。

 水辺で遊んでたらものすごい勢いで何かが近づいてきた。

 魔物かと身構えたところ長い銀髪の狐耳の女性で現れるなり狐っぽく手首をまげてポーズまでつけて「こーん」と言った。

 なんなんだこの人はと困惑していると「こんにちはあるいはこんばんはの頭の『こん』と狐の鳴き声の『こん』をかけた高度なギャグだよ」と説明された。


「変な奴ではあるけど悪いやつではないと思う」苦笑いしながら燈架が言う。

「ユーニスだよ。よろしくねー」彼女がその燈架の知り合いというやつだった。

「こっちの2人が私の地元の幼なじみだよ。初心者であんまり交流とかに慣れてないからほどほどにな」

「おっけーおっけー。私そういうの大得意だからまかせといて」

 何がどういうことだかわからなかったけどとにかく無駄に明るくて騒がしい人だった。


 ユーニスさんはものすごい勢いで残った肉をたいらげていく。

 食事にこだわってる人は少ないらしくてこんなおいしいのははじめてなんだそうだ。それを聞いてちょっぴりうれしかった。

 ぼけーっとその様子を眺めてたらクレハが小声で話しかけてきた。「ユーニスさんの装備すごいね。私たちよりずっとレベルが高い」

「ゲームばっかやってる暇な人ってこと?」

「あってるけど言い方には気をつけるべきだよ」

「全部聞こえてるんですが」とユーニスさん。

「すまん。悪気はあんまりないはずなんだ」燈架が代わりに謝ってた。


 ようやく食材がなくなって一息つく。ユーニスさんは私たちの方を見て言った。

「ごちそうさま。おいしいものを食べさせてくれたお礼に、何か聞きたいことがあるなら教えてあげるよ。だいぶ先いってることだしね」

「あの、肉と一緒に手に入れたんですが、何に使えますか」クレハがおずおずと手を上げるとビッグボアの牙をとり出して尋ねる。確かに私も気になってたことだ。

「ふむ。アクセサリーなんかを作るのにちょうどよさそうだね。知り合いに細工師がいるから今度紹介してあげよう」


 お互いに礼を言い合って別れる。ユーニスさんは来た時と同じく超スピードで帰っていった。

 その日はもうBBQだけで満足したので私たちも片付けが済んだらすぐに解散した。

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