隠された理由



 山口の話を聞き終わると、大佐の元へ向かった兵士のことが思い起こされ、安否が心配になってきた。仲間とは言えないが、私を助けたのは確かなのだ。

「山口さんは、あの兵士のことを知っていて、我々に近づいたんですか?」

私はこの際だと、疑問に思うことを尋ねた。国の秘密行動だとしても、今は我々しか居ないのだ。

「実際には今日始めて見ますが、米国防省が派遣するとは聞いていました。お二人に近づいたのは、色々な場所で宣伝していたでしょう? 日本行きの手立てを得るために。結局は見つかりましたが、大佐には知られたくなかったのです」

「それで……」

私は山口を誤解していたようだ。しかし、山口が大佐の手から逃れた理由は聞いていない。山口も話を切り出さなかった。

スティーブに二人の会話は理解できない。そこまで話して私はスティーブに山口の言葉を伝えた。

「どうやって、大佐の手から?」

スティーブは疑問を直ぐに口に出すタイプだ。私はそれを知りながら、そのままを説明したのだ。山口の反応が見たかった為だ。

「当初、私が日本人との折衝の役をするように言われました。しかし私には出来ないと答えました」

「それで開放はされないでしょう」

スティーブの追撃に山口は口を閉ざした。

「ミスター・山口。何故あなたは、解放されたんですか?」

スティーブの口調は次第に強くなっていった。

「それは……」

「まあ、スティーブ、こんな世の中だ、何か理由が有っての事だろう」

私はスティーブをなだめながら山口の反応を窺った。山口は尚も口を開かずに居たが、やがて立ち上がりシャツを脱ぎ捨てた。

そこには無数の傷と焼け爛れた跡が生々しく残っていた。

「拷問……ですか?」

私の口からは突飛な言葉が出ていた。

「大佐曰く、尋問だそうです」

山口は脱ぎ捨てたシャツをゆっくりとはおった。

「ごめんなさい。ミスター・山口……」

スティーブは両手を合わせて謝っていた。これは私が教えたものだが、私にはそれでも喉に引っかかるものを感じて止まなかった。

普通ならば尋問が上手くいかない場合、どうするか考えたのだ。おそらく……。殺すだろう。それが私の答えだった。

ここに来た目的は山口が話した通りだろうが、その先の話には疑問点が有りすぎた。第一に、日本政府が黙って居る筈ないのだ。

これは連絡のしようが無ければ有り得るだろうが、山口の話通りならば、もう、何年も前の話なのだ。第二に、その割りに山口の傷は新しく見えた。第三に、山口の昼間の行動が皆目見当が付かないのだ。山口自身も語ろうとはしないのも、この期に及んで不自然に思えた。今は平和な時代ではない。全てを疑って掛からなければ、自分の命が危険に晒されるのだ。

その理由は、翌日の山口の行動で明らかになった。山口はやはり只者ではなかったのだ。


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