『こなしやましん』

やましん(テンパー)

『こなしやましん』



 『これは、また、やましんの妄想による、ほらばなしで、あります。』




 やましんさんは、村外れの一軒家に、しんみりと、住んでおりました。


 父親は、学歴はないものの、鉄を作る職人としては一流でしたが、その父親も、やさしい母親も、もはやなく、母が作った、ちいさな、くまさんのぬいぐるみといっしょに、暮らしておりました。


 父が残した分と、じぶんが『異世界文明探訪方』で働いた分の、小さな蓄えで生きておりました。


 ところが、新しくやってきたお代官さまは、『子も孫もない人間は、役立たずである。』として、60歳になったら、追放する、と定めました。


 それで、いよいよ、やましんさんは、村から追放されることになりました。


 なんとか、くまさんだけは、持たせてくれろ、と、頼み込んだのではありますが、代官さまの代理である村役さんは、頑として、許してくれません。


 なくなく、おにぎり二個と、竹の水筒ひとつをずだ袋に入れて渡され、山奥の村境から、追いたてられました。


 もう、秋が深くなる時期で、夜になると、山のなかは、冷えて参ります。


 昔は、街灯などもあったのですが、世界同時戦争で、文明は崩壊し、いまは、灯りといえば、ろうそく、くらいしかありません。


 ただ、お代官さまのお屋敷には、自家発電器があり、公費でささやかな灯りがともるのです。


 お屋敷では、一部の人たちが、毎晩、酒盛りをしておりましたが、往時に比べたら、焚き火と原子力発電くらいの差がありました。


       ⛰️


 真っ暗な山のなかは、危険です。


 人に飼われていた、犬さんやねこさんたちが、野生に帰り、また、動物園にいた、かなり危ない獣さんが、人を狙って出ることもありました。


 マッチなどは、貴重品で、代官署か、役所か、村役さんの家にしかありません。   


 それでも、今夜は、満月でした。

  

 やましんさんは、両親のお墓がある、山のなかでも、一番深いあたりの山頂に向かいました。


 昔は、市営墓地でしたが、いまは、荒れ放題です。


 追放された人は、よその地で再起するのは、まずむりでした。


 どこの村も、町も、今いる人でめいっぱいなので、よほどのお金持ちか、権力者が、移住先の親戚にでも居なければ、外部からくるひとは、みな、追い出されるのです。


 だから、追放されたら、荒れ果てた墓地に来て、最後を遂げるのが、普通のやりかたでした。


 月明かりに、どんみりと照らされ、どのお墓の回りにも、そうして果てた人たちの遺骨が、一杯、ばらばらと、ころがっておりました。


 だから、やましんさんも、そうしようと思ったのです。


 お墓までたどり着いたら、夜中近くになりました。


 両親のお墓のあたりにも、人の骨が散乱しています。


 あきらかに、何者かが、後始末をしに現れるのでありましょう。


 そうして、あちこちに、ばら蒔くのです。



 そこで、最後の晩御飯として、おにぎりをずだ袋から取り出し、お水は、ちょっとだけ頂きながら、なんだか、やたらに、しょっぱい、あまり、上等とは言えないお米をいただきました。


 しかし、これは、村の人の、精一杯の餞別なのです。


 もちろん、やましんさんは、気がついておりました。


 何者かが、暗闇のなかに、次第にやましんさんを、取り巻いてきているのです。


 野生に帰った、ワンちゃんや、にゃんこたち、さらに、もっと、でっかいのも、いるのでありましょう。



 ざわざわざわ。


 ざわざわざわ。


 ホホホう〰️〰️〰️〰️〰️〰️〰️〰️😃


 ピキィ〰️〰️〰️〰️〰️〰️❗


 オギョワ〰️〰️〰️〰️〰️〰️〰️〰️❗


 ささささささささささささ………



 色んな音が聴こえます。


 でも、狡猾にも、あるいは、かつての同僚への優しさからか、彼らは、やましんさんが、最後の食事を済ませるのを、じっと、まっているようでした。


 ふと、山の遥か彼方の、海が広がるあたりを見ると、何かしら、動く光が見えました。


 それが、向こうの、島なのか、さらにかなたの、対岸なのかはわかりません。


 双眼鏡もなく、もう、老眼、近眼、乱視、緑内障、と、三拍子以上揃うやましんさんの目です。


 でも、動く光が見えたのは、確かです。



 しかし、そんな、感慨に浸っていられたのは、一瞬だけ、でした。



 ざざざざざざざざあ〰️〰️〰️〰️☺️



 『来たか。』


 やましんさんは、途中で拾っていた、いささか太めの木の枝を持って、立ち上がりました。


 死んだあとに喰われるのは仕方がないが、喰われて死ぬのは、なんだか、自尊心に逆らうように思ったのです。


 沢山の眼が、森の中から、確かに、覗いています。



 ぐるるるるるるるるるるう。



 唸りごえが、低く響いてきます。


 彼らも、空腹なのでありましょう。


 刹那❗


 なにかが、飛びかかってきたので、棒で打ち払いました。


 きゅわん‼️


 ははあ、わんこか。


 つぎは、複数でかかってくるでしょう。

  


 ざわっちなあ〰️〰️〰️〰️〰️〰️🐊



 なんだか、でっかいのが、棒にかじりつきました。


 『くそ。やるな。なんだろ、こいつ。しかし、まだあまい。』


 やましんさんは、左手に持った石を、頭あたりに、投げつけました。



 どぎょわ〰️〰️❗



 な、な、なんだ、こいつは。


 墓場のことで、そこらじゅうに、石が転がります。


 びゅわ、びゅわ❗


 いまはない、プロ野球の投手のようには行きませんが、石を投げつけます。


 すこし、間が空きました。



 相手は、体制を建て直しているようです。


 後ろがわにも、たくさん集まっているような気配がします。



 『なむさん、ここまでかあ。』


 いっぺんに、連中が、襲ってきたのです。


 ぎわ。


 ああ、いたたたたあ。


 ぎわらー❗


 首もとを、狙われました。


 しかし、そこで、突然に、暗やみから、さらに別の、まっくろな、でかい何かが飛び出してきて、辺り一面にいた、猛獣化した、わんこかわにか、さめか、なにかたちを、かたっぱしから、ぜんぶ、追い払ってしまったのです。


 やましんさんは、それでも、あちこち、かまれ、ひっかかれ、ずたずたでした。


 そのまま、倒れてしまったのです。

  

 


 気がつくと、もう、朝になっておりました。


 そうして、やましんさんの手のなかには、あの、大切なくまさんが、眠っていたのです。


 『はあ・・・・・・・・夢か。でも、どうやって、来たんだろう。』


 村のだれかが、ずだ袋に、密かに、忍ばせて、いたのかもしれませんが。



 『そうだな。生きてみる手もあるかな。』


 やましんさんは、両親のお墓に手を合わせ、痛い手足を引きずりながら、骨だらけの山を、なんとか降りました。


 それから、破壊され尽くした、昔の港にむかったのです。


 あの、動く光を目指そうと、思っていました。



       ・・・・・・・・・



             おわり

 






 


 


 

 


 

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『こなしやましん』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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