第11話 そんなしょうもねえ奴らを救うのが、俺たち勇者なんだぜ

「まぁ、最初だからね。そのうち、もっと強力なボスも出てくるよ。そんな時に、チームで協力できなかったら……」



 ……そうか。出来なかったら、俺たちは死ぬんだ。



「どうしたんですか?キータさん」

「ううん、何でもないよ。一息ついたら、シロウさんを追っかけようか」

「そんな悠長な感じでいいんすか?」

「大丈夫だよ。一人で行けるって判断したから一人で行ったんだろうし。あの人は、カッコつける為に無駄な事するような人じゃない」

「確かに。じゃあ、ちょっとゆっくりしていきますか~」



 そんな話をして休憩していると、突然島のどこかから炸裂さくれつ音が聞こえてきて、島中の鳥たちが空へ飛び立った。



「……なんか、そろそろ行った方が良くないですか?」



 落ち着いたモモコちゃんは、どこか不安げな表情を浮かべた。そういう顔、出来たんだ。



「そうだね。そろそろ向かおうか」



 立ち上がり、シロウさんが走って行った方向へと向かう。途中、木に斬ってつけた×印が見えたから、それを追っていくと、俺たちが降りた方向とは逆の海岸でシロウさんが一人の男を追い詰めていた。結構ボコボコにぶん殴ったようで、男の顔は腫れている。



「おう、来たのか」

「そいつがチッターですか。殺さないんすか?」

「殺さねえよ。人間だからな。それに、こいつにはブィー・グワンを操った罪を償わせなきゃならん」



 それを聞いたチッターは、突然ヘラヘラと笑いだして、シロウさんを嘲笑するよな表情を浮かべた。



「ブィー・グワンを俺が操ってる!?違うねえ!俺は、あいつらに理由をくれてやっただけさ!紋章という免罪符をくれてやっただけさ!俺は、何もやっちゃいねえ!」

「……どういうことだ?」



 訊くと、奴はこっちに顔を向けて、尚も不気味に笑い続ける。



「本当は、俺の紋章に人を操る力なんてない!あいつらは、勝手に肉を食うのをやめて!勝手に苦しんで!勝手に人を羨んで攻撃してんだよ!バーカ!」

「なんだって!?」



 俺と同じように、二人も声を上げて驚いている。



「へっへっへ、驚いただろう?俺も、嘗てはブィー・グワン信徒だったんだ。だが、ある日とある連中が俺の元に現れて……」

「うるせぇ、聞いてねえよ」



 呟くと、シロウさんは膝をつくチッターの胸倉を掴んでぶん殴った。



「いったい!えぇ!?おま、勇者じゃねえのか!?」



 まぁ、確かにチッターにまつわる大切な話が始まる雰囲気だったよね。



「知るか。牢獄で看守にでも聞いてもらえ。結局、お前の紋章は何なんだよ」

「いや、だからその昔に俺が……」



 あぁ、また殴られた。



「わか……っ。わかったから、これ以上殴らないでくれ!」

「喋れ」



 冷静に考えれば殺さないだけ有情なんだけど、やっぱり酷く見えるよなぁ。二人は、置いてきた方がよかったかもしれない。



「ほ、本当に何の意味もないんだ!ただ、俺やお前が思っている以上に、この世界には自分を律する事の出来る人間が居ないんだよ!そんな奴らに、一人じゃない証拠だと言って紋章を付けてやっただけなんだ!そしたら、ブィー・グワンに関わらず、どいつもこいつも勝手に暴れ始めたんだよ!」

「本当か?」

「本当だ!じゃあ、証拠に今すぐこの世界にいる俺の教徒の紋章を消してやるよ!……はい、消した!今、全部消えた!ギリギスで確かめて来いよ!」



 世界に狂乱をもたらした稀代の呪術師は、思っていたよりも小物だったらしい。



「ふぅん。ま、でもブチのめすよ。お前はやっぱり、自分を律せない弱い奴をその紋章で食い物にしたんだ。大人しくブタバコで反省でもしとけ」

「……もう、絶対ブチのめすのか?」

「あぁ」

「俺は、助からないのか?」

「あぁ」



 あまりの迫力に、いつの間にか二人は俺の背中に隠れていた。これじゃあ、どっちが正義の味方かわかんないよ。



「なら、最後に一つだけ訊かせてくれ」

「なんだ」

「お前、勇者なんだよな?世界、救うつもりなんだよな?」

「それが質問か?」

「ち、違うよ。……何度も言うが、あの紋章には本当に効果は無いんだ。要するに、人はみんなどこかにあんな醜い感情や承認欲求を隠し持っていて、それを『チッターの紋章』という影に隠して世に出しているんだよ。俺が言うのもなんだけど、正直あいつらはマジで救う価値もないと思うぜ?」

「だろうな」

「そうだろ?だから、俺は悪魔に心を売ったんだ。実際、そういう呪術師はこの世界に何人もいる。悪魔は、世界を滅ぼすと言った。今の人間にとっては不都合な存在だろうけど、逆に言えば一度世界を滅ぼしてまたやり直すいいきっかけになってくれるって事だと思うんだ」

「まぁ、そういう考えもあるだろうな」

「だろ!?だったら、お前だって!」



 瞬間、ゴッ!という鈍い音が周囲に響いて、チッターは気を失った。あれは、痛いぞ。



「考えるまでもねえ。俺が迷ったら、こいつらは誰を信じりゃいいんだよ」



 その呟きは、アオヤ君とモモコちゃんに聞こえただろうか。



「……なぁ、アオヤ、モモコ」



 呼ばれ、二人は俺から手を離すと、静かに砂浜の上を歩いて彼を見上げた。



「そんなしょうもねえ奴らを救うのが、俺たち勇者なんだぜ。お前ら、着いてこれるか?」



 言って、シロウさんがチッターの体を担ぐ。そして、チッターの乗ろうとしていた船を指さしてもう一つの道を示すと、笑ってからサクサクと足音を鳴らして乗って来た船へと戻って行った。



 そうか。これが、この子たちへの本当の試験だったんだ。だから、宝具を使わせなかったんだ。

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