第9話 一番不憫だよ、こういう奴がさ

「俺が勇者って、知ってんのか?」

「えぇ。今朝の占いにて、あなたがこの街へ訪れる事は知っていました。ですから、こうしてお迎えすることが出来たのです」

「ということは、あんたが地獄の入口の情報を知ってるっていう?」

「正確には、次なるヒントがある場所へ導くことが出来る、というだけですけどね」

「はぇ〜。占いって便利っすね〜」



 それもそうだけど、今気になるのはそのブィー・グワンという宗教の方だ。



「マルティナさん、どうしてあなたの同胞はあんな風になってしまったんですか?」

「元々、ブィー・グワンは自分たちの戒律を守るだけの、細々とした偏食の宗教でした。しかし、そのうち私どもの生活に憧れて移住してきた人々が現れて、どういう訳か自分の食生活を自慢するようになったんです。そんな時に、呪術師が現れて……」

「彼らは心を操られてしまった、という訳ですか」

「その通りです。今では、偏食家どころか、テロリストのようになってしまいました。お肉を提供する場所への襲撃を繰り返して、街のレストランや精肉店は、ほとんどが閉店になっているのです」



 酷すぎる。それに、そんな事を扇動せんどうするチッターの目的って一体何なのだろうか。



「でも、あの人たち、ポーションとか使ったことないんすかね?あれだって、作り出すのに動物の体を使って効果を試してるっていうじゃないですか。当然、死んじゃう奴もいて、だから僕たちは生きていられる訳じゃないですか。そういう猟奇的な死屍累々ししるいるいの上に平穏な今の生活があるってこと、考えてないんすかね?」



 この子、いきなり鋭い事言うなぁ。



「まぁ、洗脳のせいもあるだろうしね」

「キノコとかもダメなんすかね?」

「わかんないよ」

「つーか、俺ら時々野生のクマとかに襲われますけど、そういうのも殺しちゃいけないんすかね?」

「わかんないって」

「なんなら、魔物の命はどうなんすか?やっぱ、尊い命とかいうんすか?仮にそれが違うんだとすれば、何が基準なんすかね?」

「アオヤ君、キミはあんまり口喧嘩とかしない方がいいかもね」



 下手したら、単純なモモコちゃんよりも厄介かもしれない。今どきの若者、怖過ぎるよ。



「あんたのような、マトモなブィー・グワン信徒は連中をどう思ってるんだ?」

「正直な話をすれば、一刻も早く過激な運動を止めてもらいたいです。あれは、私たちにとっても迷惑でしかありません」

「結構、ぶっちゃけた事言うんだな」

「時々、領主のいる街に出かけますが、食事の際にブィー・グワン信徒というだけで白い目で見られることもあります。それはひとえに、これまで何年も積み上げてきた神様の穏やかなイメージを、彼らがくつがえしてしまったからに他なりません」

「本当の敵は身内ってこったなぁ。……よし、任せなよマルティナ。俺たちがチッターを叩きのめして、狂信者どもの洗脳を解いてやる」

「ほ、本当ですか?」



 その言葉を聞いて、マルティナさんはシロウさんを見上げた。



「当たり前だ。その代わり、俺たちに次の道を示しておいてくれよな」

「分かりました。それでは、早速チッターの居場所を占います。少し、待っていてください」



 言うと、マルティナさんは部屋の奥のカーテンの中へ入っていった。



「……シロウさん、そんな事しなくても、教えてくれたと思いますよ。それに、お金にもならないんすよね?」



 アオヤ君は、少し不服そうだ。



「そうも言ってられねぇよ。あれじゃあ、いずれこの街に来た冒険者を殺すかもしれないだろ」

「そうですけど……」

「それに、マルティナみたいに頑張って生きてるような、真面目な人間が不当な評価くらってんのは可哀想じゃねえか。だから、あいつの為に男魅せるって考えてみようぜ」

「なるほど。それなら、なんかちょっとやる気になりますね」

「だろ?キータもそれでいいか?」



 多分、アオヤ君は根が素直でいい子な分、納得いかないことはとことん突き詰めてしまうんだろうな。



「もちろん。それに、相手はあのチッターですから。もしかすると、悪魔との関わりもあるかもしれません」

「だな。モモコは……」

「殺します。私に殺させてください」



 ようやく落ち着いたかと思ったのに、彼女は再び目をギラつかせてしまった。



「……モモコ、お前には課題を授ける」

「なんですか?何匹殺せばいいんですか?」

「違う。今回は、お前はみんなのサポート役に徹するんだ。あと、人相手だから宝具はナシ」

「は?どういうことですか?意味がわかりません」



 食い下がる彼女に、シロウさんは珍しく真剣な表情を見せた。



「いいか、俺たちはチームなんだ。その殺意はいい原動力になるが、そのせいでキータやアオヤが傷付く事になるかもしれねえ。だから、今回の戦闘では基礎的なチームプレイを学ぶんだ」



 前にも、シロウさんがこんな事を言っているのを聞いた気がする。そうだ、確かあれも、俺たちがパーティを結成して間もない頃だったハズだ。



 ……もしかして、クロウがクビになった理由って。



「嫌ですよ。私がこのパーティに入ったのは、ホーリーロッドが使えるからであって……」

「モモコ」



 少しだけ、冷たい空気を感じた。



「聞いてくれるな?」

「う……。わ、分かりました。なるべく、頑張ります」

「いい子だ。それじゃ、マルティナが戻ってくるまで一休みといこうか」



 そして、シロウさんは笑ってモモコちゃんの肩を叩いた。無事に、戦いが終わるといいけど。

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