チッターの野望編

第7話 おじさんは、若い子が飲んだり食べたりするのを見るのが好き

「私、モモコです。歳は17。スキルは、レベル4を幾つか使えます」

「いいなぁ」



 呟き、アオヤ君はビアを飲んだ。でも、俺もシロウさんも使えないから安心して。



「こりゃ、とんでもねぇ即戦力だな。あ、店員の兄ちゃん。ビアもう一杯ね」



 褒めながら、しれっと酒を注文するシロウさん。その、おじさん特有の若い子にすぐ酒飲ますのやめてくださいよ。彼女、まだ17歳ですよ?



「そうですね。……ところで、どうして一人で旅を?それに、お父さんとお母さんを返せって」

「……私の故郷は、シャイン共に滅ぼされたんです。その犠牲者の中に、私の両親もいました」

「死んじゃったってこと?」



 アオヤ君が単刀直入に訊くと、モモコちゃんは彼を睨みつけてから、届いたビアを飲み干した。この飲みっぷり、本当に17歳なの?



「……そう。だから、私はあの悪魔どもを全員ブチ殺さなきゃ気が済まないの。あと、次軽率な事言ったら本気でキレるわよ」

「恐いよ。ごめんね?」



 彼は、素直に謝れる子のようだった。そういう精神、とっても大切。



「まぁ、そうカリカリすんなよ。その怒りは、シャインどもにぶつけてやろうぜ」

「当然です。それに、このホーリーロッドがあれば、今まで手を出せなかった悪魔幹部共とも戦えますし」



 言うと、モモコちゃんは口を不気味に歪めて、変な笑い声の後に呪詛の言葉を呟いた。



「キータさん、なんか恐いですよ、こいつ。本当に仲間にしても大丈夫なんすか?」

「分かんないよ。でも、適合者持ちで戦える人材って少ないんだ」



 正直、彼女にはアオヤ君とは別の不安がある。戦えはするんだろうけど、先の戦闘を見る限り、素直にシロウさんのオーダーを聞くとは思えないからだ。



「あ、もう一杯ビア、貰っていいですか?」

「いいよ。みんなも、飯とか適当に頼みな。……まぁ、何はともあれこれからは仲間になるんだ。仲良くやろうぜ」



 相当ストレスが溜まっているのか、彼女はコックリと頷いた後、届いた先からビアを飲み干して、口の周りに泡を付けながら更に追加の注文をした。



「ところで、次はどこの街に向かうんですか?今のところ、悪魔幹部のアジトの情報とか全然聞かないですけど」

「そうだなぁ。とりあえず、ここから西にあるギリギスに向かおうと思ってる。その街に、地獄の入口の情報を知っている占い師が居るみたいなんだよ」

「なるほど。なら、早速明日には出発しましょう。いくら俺たちが期待されてないとはいえ、早いに越したことはありませんし」

「当然だ。という事で、今日はこの一杯でお開きな。後は、若い子たちで親睦を深め合うなり好きにしてくれ」

「シロウさんは、部屋に戻るんですか?」



 ジョッキを片手に、モモコちゃんが尋ねた。



「おじさんはもう、34歳だからな。あんまり遅くまで起きてると、疲れ残っちゃうんだよ」



 この人、仕事外だと本当に頼りないなぁ。



「という事で、ここまでの支払いはしておくから。おやすみ」



 言って、グラスに残った酒を飲み干すと、コキコキと首を鳴らしてから手を上げて宿屋へと向かって行ったのだった。



「なんか、戦ってる時とは全然違いますね。いっつもあんな感じなんですか?」

「そうだね。この前も、アオヤ君と飲み比べしてここで寝ちゃってたし」

「あの時はヤバかったっすよね。シロウさん、ガタイ良すぎて宿屋に連れて行くのも相当苦労しましたし」

「まぁ、その辺含めて変な人なんだよ。……俺たちも、もう少ししたら宿屋に戻ろう。モモコちゃんは、部屋は取ってるの?」

「取ってないしお金もないんで、どっちかの部屋に泊めて下さい」



 聞いて、俺とアオヤ君は顔を向かい合わせると無言になってしまった。俺たちは二人部屋で、もし彼女が寝るとすればどちらかが床の上になってしまうからだ。というか、年ごろの女の子が初対面の男二人の部屋に平気で寝るって、どうなの?



「気にしませんよ。それに、変な事したらシロウさんに言いつけますから」

「しないけどさ。……まぁ、後で部屋に空きがないか確認しておくね」



 それしかないよなぁ。この分、経費で落ちるのかなぁ。



 × × ×



 翌日、俺たちは平野へいやを半日ほど歩いて、ギリギスに辿り着いていた。



「なんか、薄暗い街ですね」

「僕、前に来た事あるけど、こんな雰囲気じゃなかったっすよ」

「……とりあえず、お腹が減ったし何か食べよう。どこかに、ごはん屋さんはないかな」



 言って、あたりを見渡すと、不思議なことに通りに面しているレストランと思わしき店のほとんどに、シャッターがかけられていた。

 妙だな、と。そんなことを考えていると、突然、なんの前触れもなくフードを被った不気味な男が現れて、まるで脅かすような声色で話しかけられた。



「肉、食べるか?」

「……はい?」



 言っていることの意味がわからなかった。急に出てきて、いきなりなんなんだ?



「あんたら、見たことない顔だが、肉を食べるのか?」

「肉って、あの動物とかの肉ですよね」

「そうだ。お前は、肉を食べるのか?どうなんだ?」

「そりゃ、食べますけど、それが何か?」



 言うと、その男は突然膝をついて、両手で口を塞いで奇声を上げた。



―――――――――――――――――――――――――――――

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