杉﨑沙野花 「縁結びは義弟と従兄弟でした

永盛愛美

第1話 義弟くんとその従兄弟くん

 彼との出逢いは私の勤めていた本屋さんでした。


 初対面はすっごく胡散臭い人。万引きでも狙っているのかな? それにしては、もう一時間近く特定のコーナーをぐるぐる回っているし……防犯カメラにはバッチリ映っているから、お顔は大丈夫、警察に提出出来るわね。


 お探し物かな……どなたかに頼まれたのかしら? 作者? 出版社? それとも発掘調査? 知らない作者の新しい扉探しかしら? 新刊コーナーにも余念がなさそうだけど、手に取るでなし。ただコミックスと文庫本の間をぐるぐる。あ、トリビュートや同人誌系はもうちょっと奥まった場所に……あ、行かれたけど素通りしちゃったわ……あっ!もしかしたら、作家先生ご本人とか?えっえっ? 市場調査?それとも……ご担当編集者のかた? 

それとも、編集長さん?


あっ、お仕事しなきゃ。発注かける前の売り上げランキングも作らなきゃ。



 ……なんて半ば妄想しながらお仕事をしていました。目が離せなかったんです。あっ、決して、背が高くて格好いいから見とれていたわけではなくて、妙な方向の妄想をしていたわけではなくて……えっ?例えば? 


 彼氏さんがBL 作家さんで、そのかたの書籍なりコミックスなりを大人買いして売り上げに貢献したいとか……?

 でも、もしかしたら、自分たちの事がネタとして描かれていたら恥ずかしくて購入出来なくて迷われているとか?

 あっ、私ったら、また現実が向こう岸に行ってしまったわ……。


 えっと、とにかく彼は胡散臭かったのです。店長は休憩室でバッチリ防犯カメラを覗いていましたもん。



 「さやちゃん、さやちゃん、ちょっと」

 一時間になろうとした時、店長に小声で呼ばれました。

 「はい? 」

 「あの人さ、そろそろ? それとなく声かけしてみてくれるかな。さやちゃんはあと少しで休憩だろ? そのまま下がっていいよ。後は七海ななみに任せればいいから」

「はい、わかりました。後は奥様にお任せします」

 「うん。そうして。僕は一応映像チェックしとくから。何かあったらすぐ通報出来る様にね」


 ……通報? あ、もしかして、何か暴行されたりしたら? の話かしら……あんな体格の良い人から暴力を振るわれたら困るわ……警察沙汰になったりしたら、新聞に載って、たちまち悪い噂が広がって、お客様が減ってしまったら困るわ……。


 そんな事を考えながら、彼の元へ行きました。


 まさか彼が自分の弟さんと従兄弟さんの事で悩んでいたなんて、全く想像も出来なかったのです。


 本当に初対面の時は印象が最悪だったのです。

 

 そんな私が現在、彼の妻、杉﨑沙野花すぎさきさやかと名乗っているなんて……現実が向こう岸から帰って来たような出来事ですね。


 えっ?違います?

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