第46話 クァルテット

202X年 6月10日


 ここは、私達の通う私立高校の昼休み。

 

 現代に暮らす私は、我が校のモダン・ジャズ演奏部『さんぷらぁず』のリーダー、明日香と弁当を食べているが、明日香は、同じ『さんぷらぁず』でベーシストもしてる『白金孝君』が、どうやら学年No.1の人気の男子で、しかも”私”に気が有るみたいって話で持ち切りだ。

 

 私はってゆーと、その白金君とは演奏のやり方とかで良く話しはするんだけど、

なんかイマいちセンスのシンクロがピンと来ないんで、明日香の話を聞き流しながら、

 

「ふぅ~ん、それで? 悪いけど明日香。私は、なぁんか話が合わないんだよね、白金君とは」

 

「まったく、アンタは贅沢過ぎるのよね。白金君がどれだけ女子に人気あるのか知ってんの?」

 

 まるで、明日香も白金君に『ホ』の字のみたい。

 

「それはソレ、これはコレよ。だったら、まだ話の合いそうな男子が居たりするんだけどサ」

 

「え? 誰よ、誰?」

 

「明日香、ゼッタイ誰にも言わない?」

 

「言わない、言わない! ね、教えて!」


 私は、明日香に耳打ちすると、

 

「エ~~ッ!? ウソでしょ~? あんな、このエリート高校に親のコネで入った様な、サッカーのディフェンダーしか取り柄が無い、筋肉思考オトコのどこが良いの??」

 

「そんな事無いよっ! あの男子、ああ見えて結構優しいトコあるし」

  

 そこに、ウワサの白金孝が通りかかって来る。

 

「よう、越路。明日のテストは絶対俺が勝ってやるからな」


「テストは勝ち負けじゃないでしょ?」


 明日香が、白金君にクギを刺すように、

 

「それに、白金君には絶対勝てない相手がいるみたいよ」

 

「何の話だよ?」

 

「さぁね~」

 

 そこに、やはり同じ演奏倶楽部の優等生、黒澤 優が近寄って来る。

 

「明日のテストは、やっぱ物理が難関かな?」

 

 明日香は、やはり白金に対してライバル意識を持っている優に、

 

「優、よく言うよ。自分の一番の得意科目のくせして」

 

「いえいえ、高名な物理学者、越路教授の娘さんには。とてもとても、お足下にも及びませんわ」

 

 私の両親の事情を知っている明日香が、

 

「優!」

 

 私は、それを遮る様に、

 

「明日香・・・、いいのよ」

 

 その異様な空気に戸惑う様に、優が、

 

「あれ? 私、何かいけない事言った?」

 

「奈々のご両親はね、もう1年以上行方不明になっているのよ。まだご連絡無いんでしょ、奈々?」

 

「うん。ドイツにいるってメールを最後に・・・」

 

 白金君と黒澤さんが、心配そうに私に尋ねる。

 

「ご両親が行方不明? そんな事情があったなんて・・・。越路、なんで教えてくれなかったんだよ?」

 

「奈々。ゴメン。そんな事とは知らなかった・・・」

 

「いいのよ。いつかきっと帰って来てくれるって、信じてるから・・・」

 

 明日香が、私の心配事を慰める様につぶやく。


「『Rainbow seeker』、夢見た虹を信じるヒトは、必ずそれを見つけられる。ワタシ達もこの曲の練習、頑張りましょう!」

 

「そうだね!」

 

「よっしゃ! オレも指先の血マメに負けずに、ベースラインを叩き切って見せるぞ!」

 

「そんなら、私だって。ジョー・サンプルとは直接関係ないけど、リー・リトナーを目指してるんだからねっ!」

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