第三章 グランドスラム

第30話 大震災

202X年 6月11日 午後9時05分頃 


 TV番組のアナウンサーの緊急放送が入る。


「番組の途中ですが、臨時ニュースをお伝えします。


 内閣府の危機管理センターからの緊急避難命令が発令されました。首都圏を中心に、今から1分以内にマグニチュード8クラスの地震が発生するとの予報です。この放送を聞かれた方は、今すぐ身の回りの火元と電気を消して、安全な場所に避難して下さい。繰り返します・・・」


 繁華街の大型ディスプレイで流されるニュースや、スマホの緊急速報を聞いて、信じられずに呆然とする街角の人々。


 やがてどこからかパニックが始まり、逃げ場所を求めて走り出す人々。取り残され、暴徒と化した人々の下敷きになる人も。電車や地下鉄は緊急停止し、何があったのかと騒ぎ出す乗客達・・・。


 ・・・、と、そこに!


 低い地響きと共に、大地を揺るがす大きな地震が首都圏を襲う。


 ビルの窓ガラスが破れ、降り注ぐガラス片と逃げ惑う人々。


 高速道路の立体交差や高層ビルが崩れ倒れるかの様に粉塵に帰し、競り上がった大地の割れ目に乗り上げる自動車やバス。


 都会の街は一斉に停電し、真っ暗闇になる。


 河川の堤防は決壊し、下町は洪水で溢れる。


 木造建築の密集地では火災が発生し、熱波が集まって竜巻状の炎となり、街全体を焼き尽くす。

 

 ステルス戦車の我問達も、激しい揺れに翻弄される。


 4点式シートベルトをしていてもコックピットの壁に頭を叩き付けられるキラとジェイド。


「キャァッ!!」


「ウッ!! なんて揺れだ!」

 

「こ・・・このままでは・・・、戦車が転覆してしまう! ジェイドさん! バーニアを吹かして!」

 

 我問が指示を出す。


「バーニア!? この戦車には・・・そんな物まで・・・付いているのか? え~い・・・、どのスイッチだ、我問!?」


「ステアリングレバーの横の・・・赤い・・・ボタンとスロットルを同時に押して!・・・自動姿勢制御がオンになります!」


「これか? こうだな!?」


 ステルス戦車の車体下部からジェットが吹き出し、車体を宙に浮かす。


 一方、シンの乗ったコックピットを向かい合わせに抱えながら飛行する私とツヴァイ。


 モニターには大地震の様子が映し出されている。


 私に、ゲッヘラーが司令室から語りかけて来る。


「奈々よ、見たまえ。首都圏はすでに壊滅状態だ。大切な坂井君を助けたかったら、我々の施設に来るんだ。そうすれば、坂井君の手足もクローン技術で元通りにしてやろう」


「こんなひどい事をしておいて、よくもそんな事が・・・.!?」


「よく考えろ、奈々。君は爆弾の投下を防ぐより、坂井君を助ける方を選んだのだぞ?」


「えっ? 私・・・、私は・・・」


「人間とはそう言う生き物なんだよ。それを今さら悩む事は無い。これから君にオーバーライドをかける。それを君が受け入れさえすれば、君とシン君は、自動制御で我々の基地に帰投する。君の意識が戻る頃には、全てが上手くいっているさ」


「本当に・・・、本当にシンは助かるの?」

 

「約束しよう。オーバーライド、起動!!」


「ウッ!!」


 私は意識を失い、ツヴァイの操縦はゲッヘラーに乗っ取られる。




 我問達のステルス戦は地面に着地してあたりの様子を伺っている。


「どうやら揺れは収まったみたいね」


 キラの安堵を否定する様に、我問が答える。

 

「油断は出来ません。またすぐに大きな余震がやって来ます」

 

 ジェイドが次の対策を提案する。


「ここは敵のまっただ中だ。この隙に一旦退却した方が良さそうだな?」


「その様ね。でもどこに逃げれば・・・。都内の交通網は寸断されているのよ?」


 我問が答える。

 

「この戦車は軽いので水上でも移動が出来ます。ジェイドさん、ひとまず海へ!」


「了解!」

 

 外部モニターを見るなり、異常に気が付いたキラが叫ぶ!


「待って! あれは何!?」

 

 ステルス戦車のモニターに写った、大きくせり上がる水面を見た我問。


「あれは・・・! 津波だ!!」

 

 基地の司令室で、津波を見てもたじろぎもしないゲッヘラー。


「よし! 防水壁作動!!」


 ゲッヘラーの基地を取り囲む様に、次々と高く大きな堤防が地面から現れる。


 その中に取り込まれてしまう我問達のステルス戦車。

 

 津波はゲッヘラーの基地に襲いかかるが、防水壁が激しい波をも食い止める。


 周囲の瓦礫を押し流し、次第に引いて行く津波。


  いつの間にかステルス戦車をオートマトン達が取り囲み、ゲッヘラーのアナウンスが流れる。


「さあ、我問君達。もう逃げ場は無いぞ。潔く投降してもらおうか?」


 ハッチを開け、両手を上げて投降する我問達。


「さんざん手間をかけてくれたな、我問君。君にはバイオモデムについて話してもらう事が沢山ある。残りの二人は勾留室へ連れていけ!!」


 そこに飛来する奈々のツヴァイとシンを確認したゲッヘラー。


「どうやらバイオモデム本体も到着した様だな」


「奈々! なんで奈々まで!?」


「ゲッヘラーにオーバーライドされたんでしょう。キラさん、ジェイドさん! 何があっても諦めないで下さい!!」


 オートマトン達に連行される我問。


 キラとジェイドは別々に引き離されてしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る