第17話 レインボウ・シーカー

202X年 6月11日 午後1時30分頃


 学校の授業と昼休みが終り、私は友達から誘われたモダン・ジャズ演奏倶楽部、

『さんぷらぁ~ず』の練習をしている。

 

 『さんぷらぁ~ず』のバンマス(バンド・マスター)である明日香が、演奏中にストップ・サインを出し、

 

「あ~ん、もう全然ダメ! みんな、良く聞いて! 今ワタシ達が練習している『レインボウ・シーカー』は、モダン・ジャズをさらに進化し融合させた、『フュージョン』、つまり現代音楽の先駆者である、『クルセイダーズ』のキーボーダー、『ジョー・サンプル( Joe Sample )』の代表曲よ。

 

 この曲の凄い所はね、とても明確なメロディ・ラインを軸としながら、それぞれの楽器演奏メンバーが持つ個性を最大限に発揮しつつ、リズムのシンコペイションとアンティシペイションが、文字通り『融合(フュージョン)』して、ドラマチックなまでに完成されているって所なのよっ!!」

 

 明日香の熱弁に、孝が釘を刺す様に、

 

「あ~、良く分からんけど、オレ達みたいな凡人に、この曲の偉大さとやらを伝えられるのか? もうちょっとレベル下げた方が良くね?」

 

「孝! だからこそ、やってみる価値があるんじゃ無い!? それに、奈々のピアノの指使いは、完璧なまでにこの曲をマスターしてる。私達『さんぷらぁ~ず』は、そこら中の音楽ヲタク達の耳を『これでもかっ!!』ってブッ飛ばす位の衝撃を与えるのが目標なのよ!? その辺の音楽好きのおシロートさん達が、仕事帰りにお遊びでやってるような、自己満バンドとはナリが違うのっ!! 分かってて!?」

 

「わ、分かったよ・・・。まあ、確かに、越路のピアノ演奏の表現力はチョー天才的だし、オレ達だって、越路に負けない位のレベルは目指せそうだけどな」

 

 そこに優が、

 

「だったら、問題ナシじゃん? グタグタ言ってないで、練習続けましょう? あ、それから、奈々? 高音域でのインプロバイズでピアノの音がモタ付いているみたいだけど、鍵盤の指遣い、ちゃんとしてる?」

 

「そう言われて見れば・・・、もうちょっと意識しながらやってみるよ。ありがとう、優」

 

 担当のドラムで明日香が、ドンカマ(キッカケのリズム)を取りながら、

 

「それでこそチームワークね! 第三節のアタマから行くわよ、ワン・ツー、ワン・ツー・スリー・フォー!」

 

 こうして、我らが『さんぷらぁず』の特訓は続いたのであった・・・。果たして、この『 レインボウ・シーカー = 虹をこの手で掴む』のは、いつになる事やら・・・。

 

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