杉﨑始 出逢いはBL コーナーで

永盛愛美

第1話 参考書を探しに

 弟と、弟と同い年の従兄弟がゲイだった。と言うか、ゲイ宣言を二人同時にされてしまった。


 まさか弟が、従兄弟が、男が……同性が好きだなんて、思いもしなかった。

 俺は杉﨑始すぎさきはじめ。弟はもとい。従兄弟は杉﨑葵すぎさきあおい


あれは俺が高三の時だった。葵の兄貴の茂生しげおも俺と同い年だ。あいつらは二歳年下だ。俺らは受験生だったのに、あの二人は時期を企んでいたかのように暴露しやがって。絶対、狙ってたよな。俺らが大学に入学する前を、だ。


 なぜって? 決まってる。俺たちの父親が経営者だから。俺の父親が本社の、茂生んちが支社の社長だ。それぞれの母親姉妹が婿取りをしたから、父親どうしは入り婿仲間。

俺たちは進路を決める大事な時期だった。

 あいつらは、自分らが親のあとを継ぐ事からいち早く戦線離脱宣言しやがったんだ……。


 まあ……俺は中坊の頃から、何となくではあったけど、俺、長男だし、会社は俺が任されるかもな? とは考えていたが。が、が、が!いきなりソレかよ!ソコかよ!なカミングアウトだったから。俺は混乱した。


 従兄弟の茂生は俺よりもレベル違いに落ち込んでいた。や、ショックを受けた。大打撃を喰らってたな。


 ……あいつは弟に会社を継がせようと目論んでいたらしい。まあな。昔と違って誰が跡継ぎになるかなんて関係ないか。長男に決まってるとか時代遅れだとは思う。が、将来の我が家とか杉﨑両家とかを考えるとなあ……やっぱ俺たちが何とかした方が無難というか、スムーズに事が運ばねえ?あの葵に社長が務まると思えるか?


 茂生はなあ……あいつは逃げ腰だったからなあ。


 お陰で俺たちは経営者の卵として勉強せざるを得なくなり、そっち系の大学を選ぶ羽目になったんだ。





 ……あれから二年経った。勉学に励み、遊びもバイトもそれなりに、公私ともに充実した生活を送っている。




 いるんだが。

 大学は県外に進んだ為にアパートを借りている。実家から大学は結構近距離なわけだけど、通学やバイトに便利なんだ。たまには実家に帰る。


 その、帰った時に基や葵に出くわした場合……どう接したらいいのか……俺、まるっきり皆目見当が付かないんだ!……二年前から悩んでいる。


 最初は、あの二人がデキてんだと皆思ってた。少なくとも祖父母と二家族は絶対あいつらが両想いなんだと誤解して納得していた。


 それがどうやら全く有り得ない話らしくて。葵は、俗に言う『オカマ』らしい。心が女性で身体が男性だそう。好きになる対象が男性。

 基の方は、心も身体も男性で、対象が葵なんかは範疇外だそうで……全く自分と同じ男性だそう。


 俺、はっきり言って、ニューハーフとかオネェとかホモとかゲイとか、訳がわかんねぇ。

 家を出たのも、少しはあいつらの事も関係あるかも。茂生は県内の大学に進学したから家から車で通っている。茂生、すげぇよ。俺はお前を尊敬する。


 この間、サークルの飲み会でペロリと愚痴をこぼすってレベルじゃない告白をしてしまったんだ。居酒屋で……。悪い、基、葵!!バラしちまった!


 酒が入っていたとはいえ、俺は『ザルよりも上級なワク』を父に持つ酒豪だ。酔えない。酔えないけど、メンタル弱っちい時になんかやられてしまう。


 まずいな、と思ったけど、後の祭り。覆水盆に還らず飲んじまえ!え?それも無理? だよな。

 それがさ、お開きになって、さて帰るか、と店を出た瞬間に同期の奴ら(女の子ね)に袖を捕まれたんだ。


 ん? ナニナニ? 秘密の二次会のお誘い? とか思ってたら、彼女らは暗闇の方へ向かうと、こっそり耳打ちしてきた。全員で付いて来るなよ。俺、プチハーレム状態じゃん? やばくない?三人だけだが。


 「始くん、始くんにぴったりな参考書が本屋さんで入手出来るよ!」


 「……参考書? 俺は勉強する時は参考書はあんまり……」


 「違うって。弟さんや従兄弟くんの日常に参考となる本があるの! 」


 ナニ? 日常に参考となる本だとう!!

 「え、そんな参考書があんの?マジ? なんて本? 」


 「沢山種類があるから。本屋さんで『BL コーナー』を探してみて? きっと見つかるから」


 彼女らは、その『BLコーナー』なるキーワードを俺に伝えると、さっさと踵を返して去って行ってしまった。

 ……暗闇に来る意味ある?




 それからしばらく俺はバイトや試験に押され気味で、すっかりキーワードを忘れていたが、頭の片隅にはその参考書とやらを探さなくては、折角彼女らが教えてくれたんだから、と気にかけていた。



 そして、実家に帰る途中で駅前の本屋に立ち寄ってみる事にしたんだ。


 思い出したキーワード。参考書、BLコーナー。


 教えてもらってから、約半年が過ぎていた。大学三年になろうとしていた。



 

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