杉﨑さんちの茂生くんは長男の存在意義が不明瞭  

永盛愛美

第1話 長男に生まれて

 次男はいいな。生まれた順番は二番目以降が確実だし。期待値が長子ちょうしよりも少なそうだし。両親も子育てが初回ではないから、経験値が上がっているし。妙な気負いが無く、子育てして貰えて……。


 そんな事を考えながら、子どもの頃からよく二歳下の弟ーーー杉﨑葵すぎさきあおいを眺めていた、長男の僕は杉﨑茂生すぎさきしげお


 父は杉﨑商事株式会社北関東支社の社長をしている。母は専業主婦兼経理担当業務補佐。小さな会社だ。

 元は祖父の杉﨑厳すぎさきいわおが興した会社を、入り婿の父と同じ入り婿のおじさんとで会社を分割した。あちらは本社。


 なぜか、長女の夫である父が支社を、次女の夫が本社を任されている。

杉﨑家の七不思議のひとつ。ジャンケンで決めた? くじ引き? いやいや支社の方が自宅から近いから、義兄に譲った? 因みにおじさんは本社まで新幹線通勤をしている。本社は県外にあるから。


 杉﨑家は、祖父母宅を挟んで両側にはす向かいに建っている。偶然が重なって、長男と次男どうしが同級生だ。姉の方が最後に女児をもうけたので、ぼくには弟と妹がいる。妹とは七歳離れている。


 同い年の従兄弟のはじめとは、従兄弟と同級生と幼馴染みとが混ざり合っていて、しかもこんな五分とかからない距離に生まれた時から住んでいるので、弟よりもあいつの方が兄弟みたいな不思議な感覚だった。なんでも話せた。


 僕らが高三になろうという時になって、杉﨑家にとんでもない嵐が吹き荒れた。葵と、始の弟のもといが高校入学を機に、同時に彼らが同性愛者であると告白ーーーカミングアウトしたのだ。



 まさに青天の霹靂。僕は、昔から将来は葵に会社を継いで欲しいと思って、願っていた……なのに、まさかの弟が「心の中は『女の子』宣言」をしたのだ。


 後は妹のかえでが頼りだと思う。が、年が七つも離れていると……あの子が成人する前に、僕の就職が決定されてしまう。


 もう、僕は退路を断たれたも同然だ。逃げられない。このままだと、支社長の椅子が待ち構えている。


 一番避けたかった事案だった。


 やはり次男はずるいと思う。恵まれている。

 葵は自由でいいよな。


 始とは中学までは公立で一緒だった。二人とも別の私立高校へ進学したから、昔の様には行き来しなくなった。特に今年は受験生だから、尚更だ。


 

 始は自分の将来をどう思っているのだろう。 たまには遊びに行ってみるかな……。

 

 受験生の夏が終わろうとしていた。刻々と時が過ぎ秋を通り越すと決戦の冬を迎える。正念場の夏が、ほんの僅かに足踏みをしていた。


 なんで僕は長男に生まれてしまったのだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る