7-9 妻と呼ばないで

「あの・・・ランス皇子。私が何故アレックス皇子と離婚を決意したのか・・十分分かりますよね?」


私は荷造りの手を止めずに言う。


「ああ、そんな事は十分分かっている、レベッカ皇女。でも大丈夫だよ。もうアレックスは心を入れ替えたから。ついさっきリーゼロッテとは別れたんだよ。」


「「は?」」


私とレベッカはあまりにも唐突な話に耳を疑った。


「別れたって・・あの2人、私とミラージュが部屋を訪ねた時・・・姦通していたんですよっ?!」


「か・・姦通・・・ゴ・ゴホン!あ、あまりレディがそいう台詞を大声で言うべきものじゃないかと思うな。」


ランス皇子が顔を赤らめながら言う。


「だってそんなの事実じゃないですか!ありのままの事を話して何が悪いって言うんですっ?!」


ミラージュはプンプンしながら言うも、手は休めずに次々と衣装をトランクケースに入れている。


「と、とにかく・・・アレックスの話を聞いてやって欲しいんだ。それにさっき伝令で父上が国境を越えてこの国に向かっている事も分かったんだよ」


ランス皇子がおろおろしながら話をしていると、そこへアレックス皇子が現れた。

フロックコートにトラウザー姿とビシッと決めて現れたけれど今の私の目には道化師が着なれない服を無理に着込んでいるようにしか見えなかった。しかも右手を何故か後ろに隠している。


「あ・・・そ、その・・レベッカ。実は・・・君に大事な話が合って急いでここまでやって来たのだよ。」


アレックス皇子は愛想笑いを浮かべながら、私に一歩近づいて来た


「は?」


私は思い切り冷たい目でアレックス皇子を見た。まさか・・私の傍に来るつもりでは・・?じょ、冗談ではないっ!


「私に近付かないで下さい!」


ピシッ!


途端にアレックス皇子の足元に氷が張り、ブーツの靴底が氷にくっつく。



「う、あ・・足がっ!氷に張り付いた!」


アレックス皇子は両足を動かす事が出来なくなり、バランスを取ろうと両手をブンブンと無様に振り回した。すると右手に薔薇の花束が握り締められているのがばっちり見えた。


「まあ!アレックス皇子のくせに薔薇の花束なんか持ってるわっ!気持ち悪っ!」


ミラージュが露骨に嫌そうな顔で言う。


「う・・うるさいっ!お前に渡すわけじゃないのだからいいだろう?!別にっ!」


「な・・何ですって!アレックス皇子から花束なんて受ける事を想像するだけで気絶しそうですわっ!」


「な・・何だと・・っ!」


激しく応戦を繰り広げるアレックス皇子とミラージュを見つめながら私は考えた。

ミラージュに渡すわけではない・・となると・・・・?

私は隣に立ち、アレックス皇子の様子を心配そうに眺めているランス皇子を見た。


「え?何?」


ランス皇子は私を見ると尋ねてきた。


「いえ、別に。」」


う~ん・・・2人は母親こそ違えど、れっきとした兄弟だ。弟から兄に敬愛の意を込めて薔薇の花束を贈る・・・ありえなくない話ではあるが、ちょっと考えにくい。

となると・・?


「アレックス皇子・・・まさか、私にその薔薇を渡すつもりで持ってきたわけじゃないですよね?」


念の為に聞いてみた。すると・・・。


「ああ、そのまさかだ。レベッカ・・俺は君に改めて求婚する為に薔薇の花束を持ってきたのだ。さぁ、もう一度2人で結婚式をやり直そう。」


ニコニコしながらアレックス皇子は無理な姿勢で身体を伸ばし、私に薔薇の花束を差し出してきた。な・・何ですって・・?!


「は・・?ふ・・・ふざけるのもいい加減にしなさ~いっ!!」


とうとう私は我慢の限界で叫んでしまった。


キーンッ!!


振るえる空気。


パリーンッ!パリーンッ!


はじけ飛ぶ鏡に部屋中の窓ガラスが割れていく。


「うわあああっ!!な、何だっ?!何が起こっているんだっ?!」


私の力の現象を目の当たりにして両耳を押さえて叫ぶランス皇子。しかし、アレックス皇子は違う。いや、耳を押さえているところまでは同じだが、不気味な高笑いをしているのだ。


「フアッハッハッハッ・・・・!!そうだ・・・!これだっ!俺が欲しいのはこの魔女の力なのだぁっ!!さすが我妻、レベッカだ!」


プッチ~ンッ!!


「ハグッ?!」


「ま・・・また私の事を『妻』と言いましたね~っ!!お黙りなさいっ!!それに私は魔女などではありませんっ!!」


再び、アレックス皇子の口を無理やり閉じると私は叫んだ―。


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