5-6 ここからが本番
午後2時―
「アレックス様っ!」
バアアアンッ!!
私はアレックス皇子が宿泊している部屋をノックもせずに大きく開け放った。
「うわっ?!な、何だ?!お前・・・どうやってここへやって来たんだっ?!」
するとアレックス皇子は昼寝をしていたのか、ガバリとベッドから起き上がると私を見た。チラリとテーブルの上を見ると、ワインの瓶が1瓶空になっているし、何か食べ物が入っていたのだろうか?そこには空になったバスケットが乗っていた。
「アレックス様・・・。まさかお酒をお召上がりになっていたのでしょうか?」
「な・・何だ?その恨みがましい目つきは・・?ああ、そうだ。俺はこの部屋で酒を飲んでいた。この宿屋の女主人が差し入れを持ってきてくれたからな。だからこの部屋で酒を飲みつつ、どうやって金を払わずにお前を助け出す事が出来るか考えていたのだ。本来ならお前など置いていっても良かったのだが、そうなるとお前の侍女の・・えっと・・。」
「もしかして・・ミラージュの事でしょうか?」
「ああ、そのミラージュだ。あの侍女がどんな文句を言ってくるか分らんからな。全くあの女は口煩くてどうにも苦手だ・・・・。大体な、本来なら先に出発している処をこうして、このぼろ宿で待っていたのだから、助けに来なかったからと言って俺を恨むのが筋違いだからな?」
アレックス皇子は私に何か突っ込まれるのが嫌なのか、それとも少しはやましい気持ちがあるからなのかは分らないが、早口で一気にまくしたてた。そして、私を上から下までジロジロ見ると言った。
「それにしても・・・お前、よく無事で戻って来れたな?」
「ええ。私を誘拐した者達はアレックス皇子を脅迫してもお金が取れないことを知り、諦めて私を放置して何処かへ行ってしまったのです。そこで私は何とか必死になって逃げてきたと言う訳です。そして宿屋に来てみれば、厩舎に私たちが乗って来た馬車があったのでアレックス様がいると分かり、こうしてお部屋を訪ねたわけです。」
「ああ、なるほど・・そう言う事か。」
「そう言う事かと言ってる場合ではありません!いつ追手がかかるか分らないのです。早くここから逃げましょう!私からお金を取ることが出来なかったのですから、ひょっとすると今度の誘拐のターゲットはアレックス様かも知れませんよっ?!」
するとアレックス皇子は青くなった。
「な・・何だって・・・?!こ、こうしてはおれん!すぐに護衛の兵士達に声を掛けてこの村を逃げなければっ!」
「そうですね!では手分けして護衛兵士たちに声を掛けに行きましょうっ!」
そして私とアレックス皇子は部屋を出ると、隣に宿泊している兵士の部屋のドアをノックした。
コンコン
「「・・・。」」
「返事がありませんね・・・。」
「おい、お前・・。」
背後でアレックス皇子が声を掛けてきた。
「はい。何でしょう?」
「何故、兵士の部屋はきちんとノックをするのに、俺の時はノックもしないでいきなりドアを開け放ったんだ?!おかしいだろう?!」
「ええ?!そんなところを突っ込むのですか?!」
「ああそうだ。こいつらは所詮兵士。遠慮せずにドアを開ければよいのだ。どけっ!俺がドアを開けるっ!」
アレックス皇子は私を押しのけると、思い切りドアを開け放ちながら叫んだ。
「おい!お前らっ!逃げるぞっ!」
すると、私たちの眼前にはテーブルの上に突っ伏して寝こけている2人の兵士がいた。彼らの前には空になったワインの瓶が転がっている。
「な・・何だ?!寝てるぞっ?!」
私は空になっているワインの瓶を見て言った。
「アレックス様。あのワイン・・・怪しくないですか?すぐに他の部屋の兵士たちも確認してみましょう!」
私が声を掛けると、アレックス皇子は青ざめながらも返事をした。
「あ、ああ・・そうだな・・よし!残りの部屋を全て確認するぞっ!」
そして2人で護衛兵士たちの全ての部屋を確認したところ・・全員が完全に眠っており、全ての部屋に同じワインが残されていた。
「な、何て事だ・・・。」
最後の部屋で崩れ落ちたアレックス皇子に私は声を掛けた。
「落ち着いて下さい、アレックス様。とりあえずは部屋に戻って何か対策を考えましょう。」
「あ、ああ・・・そうだな・・・。」
すっかり怯え切ったアレックス皇子は私の言葉に従い、自分の部屋へと戻って行く。私はチラリと階段下を振り返ると、そこにはアマゾナが潜んでいた。私は軽くアマゾナに目配せするとアレックス皇子の部屋に入って行く。
さあ・・・ここからが本番。
まずはアレックス皇子に一泡吹かせ、その後に悪人どもの住むこの村を壊滅させて旅人たちの安全を確保するのだ―。
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