3-10 私が行くんですか?!
翌朝―
雲一つないすっきりした青空の中・・・。
私は生まれて初めて城中の主要人物達に見守られながら馬車に乗ることになった。勿論見送りの最前列にはミラージュが陣取っている。お城の兵士や侍女、フットマンにメイド達・・ずらりと巨大な城を背景に横3列に並ぶ人々の列はまさに圧巻だった。
「う、う、う・・・レベッカ様・・・道中、お気をつけて・・どうぞ無事に帰って来て下さいね。」
涙ながらにミラージュが言う。
「おい、そんな演技悪いことを言うな。幸先が悪いだろう?」
私の背後でレベッカの言葉を耳にしたアレックス皇子が不満気にしている。
「大丈夫よ、ミラージュ。心配しないで。何かお土産を買って来てあげるから。」
しかし背後でアレックス皇子が口を挟んできた。
「おい、土産物屋なんかに行かないぞ?勝手な事を言うな。ほら、乗るぞ。」
全くうるさい人だ・・私とミラージュの話に一々口を挟まないで貰いたい。けれど私は不満をおくびにも出さず、元気よく返事をした。
「はい!分かりました。それじゃ、ミラージュ元気でね?」
そして手すりにつかまり、そのまま馬車に乗り込む。うわぁ~・・・何て立派な馬車なのだろう。座席部分がクッションになっている。おお!しかもアルコールランプまで設置してある!そして気が付いた。
「・・・え?アレックス様。何故乗らないのですか?」
見るとアレックス皇子は不満げに私の顔を見上げ・・何故か右手の平を上に向けて差し出していた。
「・・・お、お前と言う女は・・・もういいっ!」
アレックス皇子はイライラしながら馬車に乗り込むと・・・すぐに御者が馬車を走らせ始めた。
「レベッカ様ー!お元気でーっ!」
ミラージュはハンカチを振りながら手を振っているので、私もドレスのポケットからハンカチを取り出そうとし・・・・。
「おい、ハンカチなど振るな。みっともない。」
注意されてしまった―。
****
ガラガラガラガラ・・・
私たちの乗る馬車の周りには5台の護衛の馬車が連なって走り、さらに4人の馬にまたがった兵士がついて来ている。だから私は言った。
「アレックス様、護衛の馬車がこんなにあるならミラージュを連れて来ても良かったのではないですか?」
「馬鹿な事を言うな。あんな奴について来られでもしたら俺の心が休まらん。」
腕組みをしながらぶすっとした顔で答える皇子。
「あ~・・・今の言い方だと本当は侍女がついて来ても良かったのではないですか?」
すると大げさな位、アレックス皇子の肩が跳ねる。あ・・・図星なんだ・・。
「ゴ・・・ゴホン!そ、そんな事よりもだ。」
アレックス皇子は足元に置いたカバンから、次から次へと本を取り出し、私の座席の脇に乗せた。
「あ、あの・・この本は・・?」
「ああ、これは貴族の一般教養を学べる本だ。城の図書館から持ってきたのだ。この俺が直接吟味した本なのだから・・有りがたく読めよ?俺は寝る。」
アレックス皇子はそれだけ言うと腕組をし・・即寝してしまった。私も眠かったけれどもアレックス皇子がわざわざ選んでくれた本なのだ。有りがたく読むしかないだろう。
「ふう・・・どれどれ・・・。」
取り合えず一番上に置かれた本を手に取り、3ページまで読み進めた処で私は意識を無くした―。
「・・い、起きろ。おいっ!起きろっ!」
激しく揺さぶられて私はパチリと目が覚めた。しまった!ろくに本も読まずに眠ってしまった!
「あ・・・すみません。ついうっかり眠ってしまいました。」
目を擦りながらアレックス皇子を見ると何だか様子がおかしい。顔が青ざめているし、いつの間にか馬車は停止している。
「あ?もう着いたんですか?」
窓から顔を出そうとし・・。
「馬鹿ッ!顔を出すなっ!」
慌ててたアレックス皇子に頭を鷲掴みにされ、無理やり頭を窓より下の位置まで下げられた。
「い、一体何があったのですか?」
「山賊だ。」
「え?」
「どうやらこの辺り一帯を占拠している山賊のようだ。いきなり奇襲を受け、御者と兵士が全員眠らされてしまった。どうやら・・魔術師が混ざっているようだ。」
「え?冗談ですよね?」
「馬鹿!この顔が冗談を言っているように見えるか?」
アレックス皇子は自分を指さすと言った。
「う~ん・・・多少は?」
「な、何が多少はだっ!」
すると外で声が聞こえた。
「おいおい・・・いい加減観念して出てきたらどうです?馬車の中にいるのは高貴なお方たちなんですよねぇ?さあ、早く降りて出て来て下さいよぉ~っ!」
男の声が聞こえた。
「アレックス皇子・・私達の事ですよね?外に出なくていいんですか?」
「ああ・・出なくていい。・・俺だけはなっ!」
「え?」
するとアレックス皇子は馬車のドアを開けると顎でしゃくった。
「降りろ。」
「へ?」
私が?
「何をしている。さっさと降りろ!あいつらの言う通りにしろっ!こ、攻撃されたら・・どうするんだっ!」
アレックス皇子は顎でドアをしゃくりながら言う。え・・?私が行くんですか・・・?女なのに・・?思わずアレックス皇子に軽蔑の目を向けてしまう。
しかし王子は視線を合わせない。
仕方ない・・・。私は溜息をつくと言った。
「わ、分りましたよ・・降りればいいんでしょう?降りれば・・・。」
言いたい事は山ほどあったが・・・とりあえず私は素直に馬車を降りる事にした―。あの山賊たちをまず何とかするのが先決だ。アレックス皇子との事は後で考えよう・・。
手すりにつかまり、馬車から降りると私は言った。
「さぁ。・・・言われた通り、降りましたよ?」
そして山賊たちを見渡した―。
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