3-6 突然の愛人リストラ?
それは突然の出来事だった―。
グランダ王国に嫁いで半月ほど経過した頃の事。
朝食後、部屋で私は読書、ミラージュはハンカチに刺繍をしているとノックの音が響き渡った。
コンコン
「はい、どなたですか?」
ミラージュが刺繍の手を止め、ドアに向かって声を掛けた。
「私です・・・クラウディアです。」
「な・・何ですってっ?!」
途端にミラージュの顔色が変わり、ずかずかとドアに向かって歩くと乱暴に開けた。するとそこにはクラウディアが立っていた。
「あ・・・貴女、この2週間ばかり・・一体何所へ行っていたのですかっ!」
ミラージュは身体を震わせながらクラウディアを指さした。
「え・・?ちょっと実家に里帰りしてましたけど・・?」
しれっと答えるクラウディアにミラージュは切れた。
「な・・・さ、里帰りですって~っ!レベッカ様の専属メイドになったくせに?!しかもこちらに何の報告もせずに2週間もっ?!」
「ええ、いけませんか?アレックス様の許可は頂いていますよ?私の直接の雇用主はアレックス様です。何か問題でもありますか?」
「も・・も・・問題って・・問題だらけですっ!」
ミラージュは顔を真っ赤にして抗議している。それを見て明らかに不満そうに腕組みをしているクラウディア。はっ!ま・・まずい・・・っ!このままではミラージュのイライラがピークに達して・・ほ、本性が・・・!
私は慌てて2人の元へ駆けより、間に入った。
「まあまあ・・・落ち着いて。2人共。とりあえず、クラウディア・・これからはお休みに入るときは事前に私に連絡を入れてくれるかしら?こちらは貴女の姿が突然見えなくなって心配していたのよ?」
心にも無い台詞を言う。ああ・・私はどんどん嘘つきになっている。
「レ、レベッカ様!一体何を・・もがっ!」
抗議の声を上げそうになったミラージュの口を塞ぐと、私は愛想笑いをクラウディアに向ける。
「え・・?心配・・していたんですか?」
すると意外そうな顔つきでクラウディアが尋ねてきた。
「ええ!勿論よっ!」
コクコク頷くとクラウディアは少し考え込む素振りをすると言った。
「そうですね・・・ではまた今度不在になるときは・・一応レベッカ様にも声を掛けますね。」
「何ですかっ?!一応って・・モガッ!」
私は再びミラージュの口を塞ぎながら尋ねた。
「と、ところでこの部屋を訪れたって言う事は・・私に何か用事があって来たのよね?何かしら?」
「あ・・そうでした。アレックス様がお呼びなんです。すぐにいらして下さい。」
「え・・?アレックス様が・・?」
まさか・・・私を呼びだすなんて・・。ひょっとして・・・ランス皇子の温室の果実のつまみ食いがバレてしまったのだろうか?!戸惑っているとクラウディアが急かしてくる。
「さぁ。早く行きましょうよ。」
わたしは憂鬱でたまらないのに、一方のクラウディアは嬉しそうにしている。
「わ・・・分かったわ。アレックス皇子の所へ案内してくれる・・・?」
「はい、では案内致しますね。」
クラウディアの後に続き、私、そしてミラージュが部屋を出ようとしたとき・・・。
「ストップ。ミラージュ様はここでお待ち下さい。」
突然クラウディアがミラージュに言った。
「は?何故かしら?」
ミラージュは不機嫌そうにクラウディアを見た。
「アレックス皇子様の命令なんですよ。『口うるさい侍女は連れて来るな。レベッカだけを連れて来い』って。」
おおっ!召使と言う立場でありながら・・ついに私の事を呼び捨てにしたっ!
「あ、貴女・・・!よりにもよってレベッカ様をよ・呼び捨てに・・・!」
「さ、さあ!早く行きましょうっ!ミラージュ、お留守番よろしくね?」
これ以上話がややこしくなる前にさっさとアレックス皇子の元へ向かってしまおう。
私はクラウディアの背中を押すように部屋を後にした。
****
「こちらにアレックス皇子様がいらっしゃいます。」
クラウディアは得意げに言うと、ドアをノックした。
コンコン
「入れ。」
中からアレックス皇子の声が聞こえてきた。
「はい。」
クラウディアがドアを開け、私は部屋の中へ足を踏み入れた。
「失礼致します。」
室内へ入ると、アレックス皇子が窓を背に腕組みしながら立っていた。そして私に続き、クラウディアが中に入ろうとした時・・・。
「クラウディア。誰がお前にも入るように言った?」
アレックス皇子はジロリとクラウディアを睨み付けた。
「え・・・?」
クラウディアは顔色を変えてアレックス皇子を見ると言った。
「し、しかし・・・アレックス様・・。」
「うるさいっ!お前は今日限りクビだっ!何所へなりとも好きな処へ立ち去れっ!」
むちゃくちゃな事を言うアレックス皇子。そんな・・いきなりクビだとか、好きな処へ立ち去れと言ったって・・無理でしょうに・・。
私は他人事ながらクラウディアに同情してしまった。
「う・・・ひ、酷い・・・あれ程私達・・・愛しあったのに・・。」
泣き出すクラウディア。
「うるさいっ!あれは単なる遊びだっ!勘違いするなっ!さっさと出て行けっ!」
おお・・一応仮にも妻である私の前でこのようなやり取りをするなんて。
最低だ!最低すぎる!私は真底この2人の神経を疑ってしまった。
「うう・・・ひ、酷すぎますっ!」
泣きながら走り去って行くクラウディア。あっ!ずるい!私も帰りたいのにっ!
「全く・・・やっと邪魔者が去って行った。」
アレックス皇子はクラウディアが走り去って行ったドアを見つめ、ため息をつくと・・・ジロリと私に視線を移した―。
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