第325話 ラトリム村防衛戦 その3

「デヴィッドさん、私も前線に出ます」

「そうですか、お気をつけて。後方支援は任せてください」


 防衛戦が始まってからはや4時間が経過した。その間、村人たちを中心に防衛が行われていたがこれ以上はキツイ。ゴブリンやコボルト程度なら多少の怪我をすることはあれど倒すことが出来ていたがオークなどの魔物は1体ならまだしも数体で攻めてくるとそれだけでも前線崩壊の危機だ。


「リリーカースさん、最終防衛ラインまで撤退してください。これ以上は負傷者が増えるだけです」

「...ああ、分かっている。お前たち後退だ。隙を見せるなよ。10秒後に弓隊による一斉射撃だ」


 MP回復ポーションをがぶ飲みしながらメタモルフォーゼで戦闘用に装備を変換する。とっくにデスペナは解除されているので戦闘面で心配はないがタンク職のようにヘイトを集めるスキルが無いのが難点だ。


「放て! 弓隊は撤退、槍隊は少しずつ門まで後退。門に着いたら守りを固める」


 リリーカースさんの号令の下、雨のように矢が降る。それは近づいてきていたオークやオーガを射抜き、さらにはゴブリンを葬った。しかし、ゴブリンの数は目に見えて減少し、オーガなどが増えている現状では有効な一撃とはなり得ない。


 オーガは強靭な身体で矢を跳ね返し、オークは矢が刺さっても皮下脂肪によりダメージは少ないからだ。


「気を保て!! ゆっくり後退だ」

「私が陽動します!」


 槍隊が近づいてくる魔物に恐怖し、動揺しているのを見て前線に出る。このランク帯の魔物になると民間人では恐怖が先行して碌に動けなくなるのは当たり前か。現実で言えば軽車両が猛速で突っ込んで来るようなものだからな。


「ヘルオーラ」


 開幕の一撃はヘルオーラだ。神官において広範囲攻撃と言ったらコレしかない。漆黒が円状に広がり範囲内の魔物の体力を喰らう。これでヘイトを奪うことが出来ればいいのだが...そう簡単には上手く行かない。


 支援だけでは戦闘に参加していると認められていないようで白黒は発動していなかったため火力が低い。MPを渋って魔物相手にデバフを飛ばしていなかったのが主な原因だろうがな。


「【漆黒の剣 純白の盾 我は屍を築く修羅なり〈連続詠唱 四種白黒〉】」


 パラメータ上昇のバフとMP回復用のアブソープなどを掛けて白黒を発動させる。それにより十字架が召喚されバフに補正が入る。一撃で殺せなくても奴らの足を奪えばいいので導魔と硬魔の二刀流で脚に切り傷をつけて行く。

 動けない相手なら村の者たちやデヴィッドさんが遠距離から攻撃しても反撃の心配は要らない。それにその内ユーリウスさんが止めを刺してくれることだろう。


 今は裏に回った魔物を倒すために離れているが数分もすれば戻って来るはずだ。それまでに魔物の足止めをする。


 残念ながらこの戦いには終わりが見えていないのだからどれ程の長期戦になるか分からない。だがこのペースなら問題は無い。


「【漆黒の剣 純白の盾 我は屍を築く修羅なり〈連続詠唱 四種白黒〉】」


 隙を見てまたも連続詠唱を行う。これにより十字架が一気に増える。十字架一つでパラメータ上昇系バフと同等の効果があると言うのは余りにも破格だ。実際、白黒が発動してから明らかにヘイトを集めるのが簡単になった。


 導魔を一振り。魔刃による刀身がオーガを斬りつける。オーガは巨躯なだけあり、首を狙うのは難しいが脚に攻撃を当てるだけならなんてことはない。むしろゴブリンなどの魔物に比べれば比較的簡単だ。

 オークの場合はオーガより背丈が低いため斬りつけるのは難しいがそう言った相手にはヘルオーラを飛ばすことで足止めをする。やつらの場合は俊敏性がオーガに劣るためヘルオーラが展開しても効果範囲から出られる前にダメージを稼げる。


「ゼロ、待たせたね!」

「ジェシカさん、助かります。ユーリウスさんは?」

「ユーリウスはまだ向こうに残ってるよ。思ったよりも裏に回った魔物が多かったもんだからジョンたちを連れて戦闘中さ!」


 徐々に魔物の数が増え始め、ヘイトを稼ぐことが難しくなってきた頃にジェシカさんが戻って来た。話を聞く限り向こうも大変のようだがこっちに来てくれたのは正直助かる。

 戦場が広すぎるが故に多少ヘイトを稼いでも少し離れれば目標を村に戻してしまうのだ。一体一体丁寧に処理すれば良いと思うかもしれないが例え白黒で強化を施していようが難しい。数分間程度なら一気に数を減らせるだろうがその後スタミナが持たずに数で攻められたら目も当てられない。


「助かります。足止めした魔物を優先に止めを」

「了解さ。攻撃ならアタシに任せな」


 大剣を肩に掛けてジェシカさんが飛び出す。純戦士なだけあって素早い移動速度だが何よりその攻撃力に目を見張る。地を割る勢いで振り下ろされた大剣は見事にオークの首を刎ねた。

 バフを何も掛けていない状態でアレなのだから訪問者と住民では同じ冒険者ランクでも内部ステータスが違う可能性が高い。レオにあれをやれと言っても出来るとは思えないからな。

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