第46話 神代の歴史

 さて、ウルマさんが戻ってくるまでの間、何をして待とうか。


 少し悩んだがフレンドリストを開いてみるとミサキさんがログイン状態だったので新しい装備の依頼をすることにした。

 ファングウルフとラッシュボアの素材を大量に手に入れたし、ファングウルフの上位種であるハイ・ファングウルフの素材も入手することができたのだ。これで今よりもINTを高くすることができる。

 先ほどの戦闘で少しでも装備ボーナスがあった方が良いと思わされたからな。装備の更新は重要だ。


 装備の依頼が済んだので祭壇に近づき神々の像を見る。

 知ってたか? この八柱の神々は全員男なのだとさ。なんで女神がいないのだ。神が全て男神とかなんのロマンもないじゃないか。ここの運営は何も分かっていないな。

 まったく、こう言うゲームにはやっぱりテンプレとして女神との謁見とかと言ったイベントがあるのが定番じゃないか。......これが煩悩に染められた男への神罰なのか?


「ゼロ様は神々についてご存じですか?」


 神像を見ているとウルマさんを呼んできたシスターが話しかけてきた。

 神々の情報はキャラ作成時にサエルさんに少し聞いた。それが、マグバースにおける神々は主神である大神と七柱の神が存在すると言うことだ。しかし、この程度のことしか知らないので首を横に振る。


「それでは神々について少しお話をしたいと思います」


 そう言うとシスターは目をつむり、神像に祈りを捧げる格好をしながらポツリポツリとこの世界の成り立ちについて語り始めた。


『かつてこの世界〈マグバース〉は生と死を司る神である大神が己の概念を用いて創造した。しかし、世界は創造者たる大神の概念を用いてでさえ独りでに廻り出すことはなかった。

 世界には全たる核があるだけで、陸や海、空でさえこの世界には存在していないのであった。何故なら事象の根源たる概念などありすらしなかったからだ。


 故に大神は自身を八つに分け世界の概念を司る七柱の神を創造した。

 世界の善を司る善神、世界の邪を司る邪神、世界の創造を司る創造神、世界の破壊を司る破壊神、世界の魔素を司る魔神、世界の争いを司る武神、世界の智慧を司る賢神を。


 これにより、世界は概念で溢れることになった。だが、七柱の神は世界の概念を司る。故に動き出す世界を俯瞰することしかできなかった。

 神たるものが世界に干渉することは世界の崩壊を引き起こすことになるのだから。

 常に神は世界に対して袖手傍観でなければならない。


 次に大神は七柱の神に自身の分霊たる天使を創造させた。世界の傍観者たる神に代わり世界の管理を遂行するためである。そして大神は創造されし七体の天使に権能を与えた。世界の創造と管理をさせるために。


 忠義の天使が舞い降りその涙で海を創り、忍耐の天使が舞い降り両手を振るい無から陸を創る。

 慈悲の天使が舞い降り己の純白たる天翼を広げ空を生み出す。

 勤勉の天使が舞い降り自身の瞳と同じ金色に輝く太陽を造り、博愛の天使が舞い降り自身の瞳と同じ銀色に輝く月を造る。

 節制の天使が舞い降り輝く光輪を掲げ精霊を創造し、純潔の天使が舞い降り主神から恩賜されしその英知で生命を創造した。

 世界の創造を終えた天使は世界を維持する者として神々が存在する下位世界、天界にて世界の進行を管理する。


 次第に世界は独りでに廻るようになった。星には生命の芽が育ち、大地には雄大なる木々が、海には揺蕩う草木が時とともにその命を世界に刻む。

 未来を照らす陽が昇り、時が経ち陽が落ちる。過去を照らす陰が昇り、時が経ち陰が落ちる。刻々と進む世界は静寂と喧騒で包まれた。


 だが世界には色がなかった。広大なる海原にも、泰然たる大陸にも、そして動き出す生命にさえ。世界を染めるものは言語を絶するものであり、色彩なき世界に変化は訪れなかった。

 故に、主神たる大神は世界に色を与えた。


 煌々たる赤、不動たる茶、静寂たる青、躍動たる緑、刹那たる黄、漠然たる無、循環たる白、断絶たる黒を。


 色は世界に変化を与えた。


 赤色が世界を染めると星を照らす太陽と月に光が灯り、茶色が世界を染めると悠然と構える大陸が生命の礎となる。

 青色が世界を染めると寥廓りょうかくたる海が幸を運び、緑色が世界を染めると星を包む空が色付く。

 黄色が世界を染めると生命に時を知らせ、無色が世界を染めると空を越えて星を包む。

 白色が世界を染めると世界に新たなる命を生み出し、黒色が世界を染めると全て等しく終わりを告げる。


 大神により与えられた色は世界に大いに影響を与えた。しかし、色は全てが調和する訳ではなかった。一部の色同士は互いに反発しあい世界に影響を与える。

 故に調和なき色には管理者が必要であった。そこで大神は節制の天使が創造した精霊に色を冠する者として色を管理する役割を与えた。


 色を冠するものとして選ばれた精霊は精霊の王となり世界の調整を行う存在となる。世界の危機には主神に与えられし色を使い情勢を調停する調停者として君臨する。


 神々が世界に概念を与え、天使が世界を管理し、精霊が世界の調停者として世界は廻る。これは人類が大陸に国を築き文明を発展させるより遙か昔の神代の出来事である』


 そんな歴史があったのか。この話からすると神々はこの世界に干渉できないのだろうか。

 それに天使。キャラ作成の時に私がサポートをしてもらったサエルさんも、もしかしたらこの話に出てきている天使なのかもしれないな。

 後、気になるところとしては精霊が世界の調停者と言うことだ。

 私の記憶ではエルフなどは精霊に属すると思うのだが......いや、妖精だったか? まあ、どちらにしろ何か関係があるかもしれない。

 既に知っているかもしれないがこの情報は教授にも教えておくとしよう。

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