第22話 フレンドのレベリング その1

 街から大分離れた場所まで来たのでホーンラビットがかなりの頻度で見えるようになってきた。

 街の近くにはまだプレイヤーがおり、攻撃の先制権などのことで言い争いになっても面倒なので少し遠くに来たがその判断は間違いではなかったようだ。ただ、私達全員はエンチャント・グリーンアップでAGIを上げているが往復の移動には時間が掛かるのでこの辺りで良いだろう。


「そろそろ、ホーンラビットも近くにいますし、レベリングを始めたいと思いますがリアさんは大丈夫ですか?」


 ウサギ狩りを開始したいと思うがミサキさんはともかく、リアさんは今回からスタートのプレイヤーなのでどこまで本気でやって良いのか分からない。

 私達のペースに合わせたら流石に引かれてしまうだろうからバフを掛けるだけにしておいた方が良いのかもしれない。


「いつでも大丈夫です。でも、戦うのはチュートリアルが初めてだったし、チュートリアルでも負けちゃったので上手くやれるか少し不安です」

「心配することありませんよ。例え、ホーンラビットの攻撃を受けても私が直ぐにヒールを使うので安心して戦いに集中してください。それにもしもの時はミサキさんが盾になってくれますよ」

「ちょっと、ゼロ。うちのリアに変なこと吹き込まないでよね。それより早く始めましょ」


 リアさんにアドバイスしていたらミサキさんに拳で止められてしまった。......流石、姉御と言われていただけはある。だが、ミサキさんの前でこれを言うと痛い目に合うので言わないが吉だ。

 

「ええ、分かってますよ。それじゃあ、最初はあのホーンラビットにしましょうか。私がバフを二人に掛けたら攻撃を入れてください。......エンチャント・レッドアップ......エンチャント・ブラウンアップ。はい。これでもう攻撃して大丈夫ですよ」

「あら、ありがとう。じゃあ、ファーストアタックはいただくわね。スラッシュ!」

「私も行きます。えい」


 ミサキさんが武器として使っているのは片手剣でリアさんが使っているのは短剣だ。2つとも武器種としては剣の部類に入る。

 ミサキさんはβテスターだっただけはあり多少不格好だがしっかりした攻撃が出来ている。


 1つ疑問に思うのは今、彼女が使ったスラッシュはただの掛け声ではないだろうか。

 本来アーツを使用すると物理系のアーツでは体や得物に闘気のようなオーラが出現し、魔術系のアーツでは魔術陣が出現する。だが、ミサキさんがスラッシュと言った際にはオーラが出ていなかった。

 つまりだ、彼女は私と同じ中二病なのかもしれない。意外なところに同士がいてなんだか親近感が湧いてきた。


 リアさんだが少し緊張しているのか剣先が微かに震えている。だが、攻撃はしっかり当てているので問題は無いだろう。

 先程の会話で今までゲームはしたことがないと聞いたが彼女には戦闘のセンスがあるかもしれない。と言うのも初めてVRゲームをする人は最初の壁として動物系のモンスターに攻撃できない傾向があるからだ。

 ゲームによってグラフィックは違うが外見が醜悪な生き物でないとモンスターを倒すと言う行為が生理的に嫌悪感があるみたいだ。


 二人がホーンラビットに対して攻撃を加えているが私の掛けたバフの効果もあり、段々とホーンラビットのHPが減少している。

 ホーンラビットも攻撃しようとしているが足に力を込めるたびリアさんの上段からの攻撃によって足止めを食らっていた。


〈戦闘が終了しました〉


 戦闘時間は僅か30秒くらいで終了してしまった。

 チュートリアルの時よりはホーンラビットも強くなっているが3対1だと簡単に沈められてしまうようだ。特に私はバフを掛けるだけで攻撃はしていないので私も攻撃に参加したらもっと早く倒せることだろう。


「私はレベル上がらなかったわ。リアはどう?」

「私も上がりませんでした。でも、こんなに早く倒せるなら直ぐにレベルも上がると思います」

「それもそうね。ところでゼロ、あなたバフしか使ってないじゃない。ホーンラビットにデバフも掛けなさいよ。持ってるんでしょ、闇魔術も」


 おっと。ミサキさんに光魔術しか使っていないことを指摘されてしまった。確かに私はまだ、デバフを掛けることができるし闇魔術は使っていない。

 別に使うことは簡単だがデバフまで使うとホーンラビットを倒すのが簡単になりすぎるかもしれないと思ったから使っていないだけだ。


「もちろん持ってますよ。ただ、ホーンラビット相手に使うのもどうかと思いまして。それでは次はデバフありでやりますか?」

「ええ、お願いするわ。......次の相手はあれにしましょ。行くわよ、リア」

「先輩、分かりました。ゼロさんもよろしくおねがいします」


 さて、ミサキさんとリアさんに頼まれたことだし、闇魔術もありでサポートすることにしよう。ネコミミっ子に頼まれたら流石の私でも断れないしな。

 

「始めるわよ。ゼロ、バフを早くよこしなさい。どんどん倒して今日中にはLV5以上にはしておきたいところね」


 ミサキさんがさっそくホーンラビットを見つけたようで私にバフを求めてくる。なので二人にはもう一度STR、VIT、AGIを上昇させるバフを掛けておく。これで3分はもつのでミサキには敵を見つけ次第倒す、サーチアンドデストロイをしてもらおう。


「バフを掛けといたのでもう大丈夫ですよ。それにミサキさんは張り切り過ぎですよ。どうせ直ぐにLV5まで上がるので......って聞いてませんか」

「あの、ゼロさん、バフありがとうございます。それに先輩が迷惑かけて本当にすみません。それでは私も行ってきます」


 リアさんはなんて良い子なんだ。おじさんには眩し過ぎる。

 今日は二人のために一肌脱ぐとしよう。実に不名誉だがかつて鬼畜神官だの人でなし神官などと言われていた実力を見せてやろう。

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