第10話 【 信頼の証 】

 太狼はメリーさんと買い物から帰宅した後、ご飯を食べ、

 メリーさんが模様替えをしている間に、お風呂に入っていた。





「でたぞ〜。おっ、終わったか?」

「あっ、太狼さん。はい、終わりました」


 メリーさんは、買った小物と古いタンスで、

 メリーさん専用の、日用品棚を作っていた。


「とりあえず、これだけあれば大丈夫か」

「はい。ありがとうございます、太狼さん」

「別にいいよ、これぐらい……」


 そういって、太狼はメリーさんに笑みを見せた。

 そして棚を見ていると、太狼の目にとある人形が映った。


「なんだこれ、こんなのあったか?」

「あっ、それは触っちゃ……」

「……ん?」

「……やん、太狼さん……そんな、あっ……ところ、触っちゃ……」


 太狼が人形に触れた途端、メリーさんが悶え始めた。


「……えっ!? おい、大丈夫かっ!?」

「それ、あたしの本体ですから……」

「……は?」


 太狼は何となく状況を察して、慌てて人形を元の位置に戻した。


「わ、悪ぃ。急に触っちまって……」

「いえ、大丈夫です。あたしも、言ってなかったので……」

「これ、お前の本体って……」

「はい。あたしの魂の源、【 メリーさん人形 】です」

「……マジかよ」


 太狼はじーっと、人形を見つめていた。


「ど、どうしました? 太狼さん……」

「いや、思ったより綺麗だなってよ」

「……え?」

「もっと汚れてても、おかしくないだろ?」

「あぁ、あたしの体が綺麗になりましたから」

「そこまでリンクしてるのか、これ……」

「これは、あたしそのものですからね」


「そりゃ、置きっぱなしにしたら危ないな」

「はい。なので、普段はあたしが持ち歩いてます」

「なら、なんでここに出したんだ?」

「それは……」



























       太狼さんなら、見せてもいいかなって。



























 そういって、メリーさんは笑みを浮かべた。


「いいのか? 俺になんかに見せて……」

「はい。太狼さんのことは、信じてますので……」

「……メリー」

「これは、あたしの【 信頼の証 】ですよっ!」


 そういって、メリーさんは笑顔を見せた。


「そっか、ありがとな。メリー……」

「いいえ、こちらこそですっ! えへへっ!」


 二人は笑顔を交わすと、それぞれ寝る準備を始めた。



























 二人はそれぞれの布団に入ると、天井を見上げていた。


「今日は一日、ありがとうございました。とても楽しかったです」

「俺も楽しかったよ。誰かと買い物したのなんか、久しぶりだ」

「そう思ってくれたのでしたら、あたしも嬉しいです」

「いい思い出、今日もちゃんと出来たな」

「そうですね。こういう思い出、増やしていきたいです」

「……そうだな」


 二人は静かに笑みを浮かべて、見つめ合っていた。


「そんじゃ、今日はゆっくり休むか」

「はい、そうしましょう。おやすみなさい。太狼さん……」

「おう、おやすみ。メリー……」


 そういうと、二人は静かに目瞑った。



























 しばらくして、太狼がメリーさんを見ると、

 抱き枕を抱いたまま、一人で天井を見つめていた。


「どうした、眠れないのか?」

「はい。少し、寝付けなくて……」

「……そうか」


 メリーさんは、ギュッと抱き枕を抱きしめた。


「その抱き枕じゃ、ダメだったか?」

「いつもなら、そんなことは無いと思うんですけど……」

「……?」

「なんでしょうか。何故か、物足りなさを感じていて……」

「……物足りない?」

「はい。抱き心地は、本当にいいのに……」


「…………」

「…………」


 メリーさんは、少し寂しそうな顔をしていた。

 それを見て、太狼は静かに微笑み、自分の布団を開いた。



























          なら、一緒に寝るか?



























 その言葉に、メリーさんの目が見開いた。


「……いいん、ですか?」

「寝れねぇなら、しょうがねぇだろ」

「でも、あたし……」

「大丈夫だよ、背中は向けねぇから……」

「……太狼さん」

「俺を信じて、こっちに来い」

「……えへへっ、はい……」


 メリーさんはそう答えると、太狼の布団に移動した。


「凄く、暖かいです」

「……そうか」

「でも、やっぱり不安です」

「……何が?」

「寝ている間の、自分がです」

「…………」

「あたし、元は人を刺す幽霊なんです」


 メリーさんは、悲しそうな声で呟いた。



























    その時、太狼がそっとメリーさんを抱き寄せた。



























           ……た、太狼さん?



























    メリーさんが、太狼の顔を見上げると、


          太狼は優しい声で、そっと語りかけた。



























    背中を刺されちゃ、たまんねぇからな。


         こうしてれば、勝手に動かないだろ?



























     そういって、太狼は静かに笑みを浮かべた。



























 メリーさんは、数秒固まってから、

 ゆっくりと、太狼の服にしがみついた。


「……凄く、安心します」

「……眠れそうか?」

「……はい」

「……そうか」


 メリーさんは、静かに笑みを浮かべていた。



























  メリーさんは、太狼の腕に抱かれたまま、


        安心しきった表情で、静かに眠りについた。



























 あたしメリーさん。今、あなたの温もりに包まれてるの……

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