第8話 保育園児のけいちゃん、おひるだよーっ

 

「けーいちゃーん!」

「わっ……!」

 

 スカート捲りとは助平な。

 こんなこともあるからスカートは嫌なんだ。と言うわけではないが、大した物でもないだろうに。

 確かにスカートは便利だ。スースーするし、防御力の低さにビックリしたりするけど。

 前世ではいた事はないし、率先してはきたいとも思えなかった。男だったからね。

 思えば親には長袖の服ばかり着せられていたし、特に長ズボンの強制はずっと続いた。

 分かってる。

 隠す為だ。

 俺も見られたくなかった。

 

「…………むぅっ」

「けいちゃんがおこったー!」

「おこってないもん」

 

 ただ仕返しにはどんな手段を取れば良いか分からないだけだ。

 やられた事をやり返せたら一番だが、智也はスカートを履いていないし。何をすれば良いんだろう。こんな時、前世で友達とかが居なかった事が悔やまれる。

 

「むむっ」

 

 本当に難しい。

 押しのけるのも、プールの時に突き落とすのも危ないし。殴られるのは痛いからダメだし。

 ……ズボンを脱がすとか?

 それをやると俺もおかしな子だと思われるかも。俺が変態だって考えられるのはゴメンだ。

 

「はあ」

「そうだ、けいちゃん! つみきであそぼうよ!」

「つみき?」

「うん! おうちつくったりとか〜」

「おもしろいの?」

 

 そういえば智也とは普通に話せる様になった。先生がいない今でも普通に話せてるし。でも、やっぱり先生いた方が嬉しい。

 

「んしょ、んしょ……」

 

 赤い三角の大きな積み木。

 この体には重労働だ。

 

「けいちゃん、パス!」

「はい」

「よいしょ! かんせー!」

 

 ふむ、なかなか良い出来なんじゃないか?

 個人的には報われたと言う気持ちが強いぞ。

 

「けいちゃんとおれのまいほーむ!」

「……うん」

 

 言い方に問題はある様な気がするが。

 そう言うのは将来ヒロインに……言うかもしれないのか。ふむ、今のうちに語録を増やしておくんだな。

 

「京ちゃん、智也くん」

「せんせい」

「せんせー! 見てみて!」

「わぁ、すごいっ! 二人で作ったの?」

 

 ふふん、どうだ凄いだろ。

 と、自慢をしてやりたいが俺としては先生が来てくれた嬉しさでそんな所ではない。

 

「京ちゃんは甘えん坊ね」

「うん……」

 

 良いでしょ、別に。子供の内なんだからいっぱい甘えさせてくれ。

 

「ねーねー、ほらみてせんせー! けいちゃんとのおうち!」

「京ちゃんと智也くんのお家かぁ……。なら、先生はお客さんかな?」

「せんせいならいつでもしょうたいする」

「ありがとね、京ちゃん」

 

 あ、訂正忘れた。

 でも良いや。面倒だし。

 

「智也くんは京ちゃんの事、好きね」

「うん、だいすきー!」

「わぶっ!」

 

 大好き。

 初めて言われた様な気がする。前世だと全然聞いたことない。愛してるも同じ。俺は聞いたことない、知っているだけの言葉だけ積み重なってた。

 俺はこんな言葉を……まだ吐けそうにもない。

 愛してると囁くことも、好きだと告白することもまだ出来ない。

 

「ほら、お昼寝の時間になっちゃうよ」

「えー!」

 

 片付けたくない様だ。

 まあ、そりゃああんなに頑張ったんだからそれも当然なのかもしれない。子供としては。

 

「ともや、こんどまたつくろ?」

 

 俺は大人だからな。

 代替案は出せるのさ。

 

「うん! じゃあ、やくそく!」

 

 ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本飲〜ます、指切った。

 

 みんな知ってる指切りをやって約束を取り付ける。これも遊びの一つ。こうやって指切りの約束をするのも初めてかもしれない。

 二度目の人生なのに初めてのことが多い様な……仕方ないか。

 

「えっしょ……」

「ふっ、ふっ」

 

 急いで片付けよう。

 先生に褒められるぞー。

 

「ふふっ、京ちゃんえらいえらい」

「うゅ……」

 

 ふへっ、褒められたぜ。

 良いだろー。

 

「智也くんもえらいえらい」

「へへっ」

 

 何、俺だけじゃないだと?

 いや、別にそこまでの独占欲は無いけども。ぐぬぬ、悔しいな。

 

「皆んな片付け終わったみたいだし、お昼寝に行こっか」

「おひるね……」

 

 あんまり好きじゃ無いんだよなぁ。お昼寝、というか寝るという行為が。子供なのに全然寝ないから、俺身長すっごい小さいんだよな。

 

「京ちゃん?」

「……だいじょ、ぶ」

「…………どうしたものかなぁ」

 

 先生に迷惑はかけたく無いけど、でも寝れないんだ。

 悪夢ばっかりだ。息が苦しくなるし、痛いし、怖い。

 目を瞑ればたった一人、暗闇に孤独。寝るときはお母さんかお父さんに抱きついて寝る。

 またかと呆れられるけど、仕方がないと思ってくれ。

 

「けいちゃん! となりでねよ!」

 

 布団が敷かれて、智也が自分の隣をぱんぱんと叩く。ここに来いと言うように。

 仕方ないな。

 ああ、全くしかたないな。

 これは仕方なくだ。

 

「じゃあ、皆んなお休み」

 

 目を閉じて、暫く悪夢だ。

 首を絞められ、腹を殴られる悪夢。怖い怖いと逃げるように手を伸ばして温もりに触れた。

 

「んっ……」

 

 擦り寄せて、抱き寄せて。

 俺は身体全体に温もりを感じようと必死になっていた。

 

「すぅすぅ……」

 

 心が安らぐ。

 温かい、これで安心して…………。

 

「皆んな起きてーっ」

「あっ!」

 

 ん?

 あれ、俺何かに抱きついてる。先生が縫いぐるみとか用意してくれ…………っ。

 

「と、もや?」

「んんっ、おはよ? けいちゃん……?」

 

 まさか、智也に抱きついてしまっていたとは。何たる不覚……いや、不覚か?

 まあ良いや。

 

「ごめんなさい」

 

 俺はちゃんと謝れる大人。

 後は智也の態度次第。

 

「ううん。おれはいいよ?」

「あ、ありがと……」

 

 やっぱり智也は優しかったんだ!



 後日、俺と智也がラブラブだなどと言う下らない噂が広まってしまった。俺は子供の好きな下らない話だと聞かないフリをした。智也は否定してたけど。

 好きな女の子がいたのなら申し訳ないと思う。本当にごめん。

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