第132話 お義母さんの学校生活②
「あんたはプロ野球選手か」
「いやー、ついつい」
昼休みに四組に行くと、まるでヒーローインタビューの様に琴葉さんの周りに人が集まっていた。
それをようやくかわして映画研究部の部室へと向かう為、二階の渡り廊下を歩く。
「それよりコーちゃん。今からどこに行くの?」
「ああ、いつも昼は冬馬と四条と四人で映画研究部の部室で食べているんです。あっちの校舎が部室棟なのでそこに向かっています」
「ふぅん……仲良いのね」
「良いですね」
「そっか、そっか」
琴葉さんは嬉しそうに頷いた。
「――ところで映画研究部にご飯があるの?」
「え?」
「だってお互い手ぶらでしょ?」
「あ……」
いつもシオリが弁当持って来てくれるから忘れてた。
そうだよな……そりゃ弁当なんてないわな。
「いつもシオリが作ってくれていたので忘れていました」
「あら、愛妻弁当だったのね。ごめんなさい、気が付かなくて」
「いえいえ、とんでもない」
俺はスマホを取り出して冬馬に弁当を忘れた事を伝えようとした時に、タイミング良く二人が後ろから現れる。
「二人共どうした? こんな所で立ち止まって」
冬馬の質問に事情を説明する。
「弁当忘れてな。ごめん、今日はシオリと学食行くわ」
「ああ、そういう事なら仕方ないな」
そう上手くかわした所で琴葉さんが「待って」と俺達の会話に入ってくる。
「四人で食べたい。ダメ?」
まるでシオリみたいな口調で言うと四条が「うん」と微笑みながら頷く。
「汐梨ちゃんがそう言うなら、今日はみんなで学食に行こうよ」
四条の言葉に冬馬も眼鏡クイで答える。
「行こ、汐梨ちゃん」
「うん、純恋かちゃん」
「どうした? どうした? まさか漢字の読み方変えてくるとは思ってなかったよ。しかも『か』がひらがなどうした? ちなみにあたしレゲェグループには属してないよ? 好きだけどね」
ラップは超上手いけどな。
「あはは、スーミンちゃん」
「誰よ!? あたし谷に住んでる白い妖精じゃないよ?」
「歌手の方」
「はーるよーとおきはーるよー――ってもう残暑だよ? 春すぎてるよ、そもそもそれならもうあたしの名前の原型ほぼないよね? いや、スーミンもほぼないけど」
「スミレちゃん」
「正解だけど、今の流れを考えると明らかに花のスミレだなこれな。花言葉は愛とかそこら辺の類だよ」
「純恋ちゃん」
「ようやく正解だよ。びっくりだ。こんだけボケる汐梨ちゃん初めてだよ」
琴葉さん……はしゃぎすぎだろ……。
「ふむ……」
そんな二人のやりとりを冬馬が見ていた。
「ど、どしたー?」
「いや――」
冬馬の事だ……勘づいたかな?
「純恋か――良いよな」
「そっちね」
四条が冬馬の分のお弁当を持って来ている為、二人には席を確保してもらい俺達は食券機の行列に並ぶ。
「お弁当が主って事は、コーちゃんはあんまり学食に来ないの?」
もうすぐ自分達の番が近づいてきた頃、前に並んでいる琴葉さんが振り向いて聞いてくる。
「一年生の頃は良く来ていましたよ」
「そっか、じゃあ、おすすめは?」
「おすすめ……。そうですね……。うどんですね。定番ですけど。安いし、早いし、まだ食べれる……って感じで。――あ、定食系はやめた方が良いですよ」
「オッケー」
軽やかに返事をすると琴葉さんの番がやって来て、彼女は食券機に千円を入れると五百円の日替わりランチのボタンを押した」
「おいい! ちょっ! 話聞いてた!?」
「聞いただけ」
「完璧デジャヴだわ。今、思い出した。シオリも初めて学食来た時、同じ事してた」
「琴葉と同じ事してたの?」
「つまんねーシャレは言ってねーよ」
「ほらほら、コーちゃんの番だよ。何にするの?」
琴葉さんが隣にズレてたので、俺は嫌味を込めて食券機のボタンを押した。
「俺がおすすめしたうどんちゃんにしますよーだ」
「学食のうどんはハズレが多い」
それはどこ情報だよ。
「はは。何も知らないロリ巨乳人妻の制服添えめ。ここの定食はハズレが多いんですよ。しかも日替わり何てほぼギャンブルに近い。今日の昼飯はゲキまずの飯食って午後を迎えてください」
「私が買ったら日替わりランチはゼブラ保留に変化する」
「いや……ここまでの流れが親子ほぼ一緒……。一応聞きますよ。どういう意味ですか?」
「私が買うのものは全て美味しい」
「親子揃って意味不明だよ」
「七瀬川さん……キミは去年の悲劇を忘れたのか?」
トレイを持って冬馬と四条が取ってくれていた席に座ると、琴葉さんの乗っているメニューを見て冬馬が額に手を持っていき大袈裟なリアクションを見せる。
「これがどうかしたの? 普通のご飯でしょ」
四条が日替わりランチのメニューを見て首を捻る。
「これを食べたら最後。七瀬川さんは気絶する」
「ええ、まさか」
言い過ぎだよ、と言わんばりの笑いを放つ彼女に対して彼氏の方はマジ顔で返す。
「実際に七瀬川さんは去年に気絶している」
「大袈裟だよー」
言いながら四条は琴葉さんに「もらって良い?」と聞くと「どうぞ」と返答したので四条が適当なおかずを口に運ぶ。
「――!?」
バタリと四条が倒れた。
「ええええええ……」
琴葉さんがキャラを忘れて呆然と四条の残骸を見た後にこちらに目をやり、ここまでは聞いてない、と言わんばかりの顔を見してくるので、知るかボケ、と目で訴え返す。
「純恋! しっかりしろ!」
言いながら冬馬は弁当箱に入っている玉子焼きを四条の口に運ぶ。
「――むごぉ……。もふもふ……。――うまっ! 自分の玉子焼きうまっ! 神だよ! 慈愛に満ちているよ!」
「自分でそこまで言えるとは……」
「――てか! なにこれ! えぐいよ! えぐみしかないよ! 味にえぐみしかないよ」
四条が涙目で言うと、琴葉さんがゴクリと生唾を飲み込む。
「いや、シオリ? やめておいた方が良いんじゃない?」
「そうだよ汐梨ちゃん。この後の授業は文化祭の事決めるんだから、そんなのゴートゥーイートしたら異世界へゴートゥートラベルだよ」
「だ、大丈夫……。私はチャンピオン。勝利を確信したウィナー。だからこのランチも確実に美味しいと言える自信がある」
親子だなぁ……。自己暗示も同じか……。こりゃ結果も見えたな。
琴葉さんは震える箸さばきでおかずをつまみあげるとそれを口に運ぶ。
「いった……」と三人の声がシンクロして、いつでも倒れて良い様に構える。
「――あー……はいはいはい」
平気……だと……。
「し、シオリ? 大丈夫なのか?」
「確かにこれはやばいけど、ミィ先輩に比べたらマシだね。初期のあれに近い」
言いながら琴葉さんは箸を進める。
「懐かしい……出来るのに三年かかったからねぇ」
懐かしみながら次のおかずに手を出す琴葉さん。
なるほど、母さんで鍛えられたと……。
しかし、母さん……あんた料理はゴミ以下だったんだな……。成長したんだな……。今は美味しくいただいているよ……。
「ミィ……」
「先輩?」
四条と冬馬が首を傾げた。
「あ、えっと……」
二人の問いかけに俺は何て言い訳をしようか悩んでいると「私のお母さんの先輩」と琴葉さんがサラッと言いながら味噌汁を平気な顔をして飲む。
「へぇ汐梨ちゃんのお母さんの先輩ね。――コミュニティ的に結構遠いね……」
「ふむ……」
冬馬が眼鏡クイをしながらこちらを怪しむ様な顔をして見てくる。
確かに……前は倒れたのに今日は倒れないのはおかしいよな……。
「あー……。そういえば冬馬よ。四組は文化祭どうなる感じ?」
自然と目があったよー、な雰囲気を出して話題を提供すると、腑に落ちないと言わんばかりの空気だが普通に答えてくれる。
「さぁな……どうなる事やら。六組は?」
「俺等は……」
言葉を詰まらせながら四条に「なぁ」と言うと「ねぇ」と苦笑いで返してくれる。
「長い沈黙の戦いになりそうだよね」
「だなぁ……。俺はたこ焼きやりたいなぁなんて思うけど」
「たこ焼きかぁ。良いね。屋台系」
「四条は賛成?」
「うん。一色くんが提案したらそれになるんじゃない? ほら、ウチのクラスあんなんだし」
「あはは……。他に何かあるならそれで良いんだけどな」
しかし、味方がいるなら積極的に提案しても良いかもしれないな。どうせクラスメイトは提案しなさそうだし。
「コジロウの所はたこ焼き?」
琴葉さんが味噌汁をすすりながら聞いてくる。
「決定じゃないけどな」
「ふぅん……。そっか」
よくよく考えればタイミングが悪いな……。
この文化祭の出し物を決める日に陽気な琴葉さんが学校にやって来るなんて……。
まさか……何か案を提案するんじゃ――!?
「――し、シオリは何か意見あるのか!?」
「私?」
「そ、そうだ! 何か、い、意見が、あるのかいっ!?」
目で、絶対クラスで案出すなよ!! と訴えかけると味噌汁を置いて答える。
「な、ない……かな……」
「そ、そーかー。そーかー」
オーケーオーケー。何とか伝わったみたいだな。
しかし油断は出来ない。
テンションが上がったら何をするか分からないからな……。
怪しまれるかも知れないが……。
「ん? どうした小次郎」
「んにゃ……。何も……」
もう怪しまれてるし、冬馬に鬼メッセージ送って状況確認だけしておこう。シオリの為にもそれが良いだろう。
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