第129話 許嫁とファミレス
夏休みが明けて色々と変わった学校生活。
俺とシオリの同居も終了したり、冬馬と四条が付き合い出したり。
そして、担任の先生が生徒指導のヤーさん先生に変わった事で三波先生は本当にこの学校にいないのだなと実感させられる。
以前から辞めると聞かされていたし、送別会もしたのに、まだ心のどこかで「一色くーん、おねがーい」なんて、生徒に出すようなものじゃない声で甘えてくる気がしていたが、もういないのは本当に寂しい。
二年生の二学期は文化祭や修学旅行と楽しいイベントがあったのだけど……。
「コジロー?」
「んぁ?」
気がつくと目の前にシオリの顔があり、変な声が出てしまう。
「お待たせ」
「いやいや、全然」
夏休み最初の日は短縮、昼まで授業。
ヤーさん先生が三波先生を超える高速HRで終了してくれたので、俺の方が早かった為、シオリのHR終了を待っていた。
目的の人物が来たところで昇降口を目指す。
「お昼どうする?」
シオリは当然の様な顔して聞いてくる。
それは、まだ俺と離れて暮らしているのを忘れているのか、はたまた――。
「シオリは?」
聞くと手を顎に持っていき考えると「ファミレス……」と呟いて俺を見る。
「ファミレス行きたい」
「そういやシオリとファミレスって行った事なかったな」
「高校生と言えばファミレス」
「あー、まぁ強く否定できない部分もあるな……行くか」
「うん」
嬉しそうな笑顔を見してくれた。
その嬉しそうな笑みは単純に俺と行けるのが楽しみなのか……。
いやいや、何を疑ってるんだ……。ダメだな……こんな考えは捨てなければ。
昇降口に着いた所で「見つけたー」と声と聞き覚えのある声にお互い振り向くと、そこにはシオリ程ではないがポニーテールの似合う上級生の顔があった。
「夏希先輩」
「お久しぶりです」
挨拶を交わすと「久しぶりー」と親しみやすい笑みで手を振ってくれる。
「あのさ、二人共、また助っ人頼めないか?」
「部活ですか?」
尋ねると「そうそう」と頷いた。
「もうすぐ文化祭だろ? 夏休みから進めてるんだけど押しててね」
「結局何作ったんですか?」
「ショートムービーだよ」
「今度こそ主演!?」
シオリがやる気に満ち溢れた表情をするが夏希先輩が苦笑いで答える。
「撮影はほとんど終わってるからね」
「なんだ……」
ちぇ、と昔の子供みたいに拗ねているシオリに夏希先輩がパンっ! と手を叩いて頼み込む。
「また編集をお願いしても良いかな?」
「構いません」
主演でなく残念がっていたが、頼られるのは好きみたいで、快く引き受けた。
「小次郎は……別に良いや」
「おいっ! そこは誘えや! 涙ちょちょキレるわ!」
「あはは、冗談、冗談。シオリと一緒に来てよ。またカメラマン頼むかもだし」
「何かついで感が非常に否めないですけど……。まぁ行きたいです」
「ありがと。――それじゃ二人共、明日から頼める?」
俺とシオリは顔を見合わせて「はい」と答えると「じゃ、よろしくー」と夏希先輩は部活棟へ向かって行った。
♢
食べ終えた皿を重ね、目の前にある黒いシュワシュワの液体を飲み、一息吐いて正面に座る彼女を見る。
彼女はデラックスと名の吐くパフェをまるで誕生日を祝ってもらった幼い少女の様にスプーンですくい幸せそうに食べている。
「文化祭の時期かぁ……」
夏希先輩の先程の発言で、別に忘れていたわけではないのだが、何だか意識してしまう。
「今年は楽しみ」
「ん?」
「去年は一人で暇だった」
「しかも去年の出し物展示だったもんな。騒がしいクラスだったからこそ、祭りを見て回りたいって感じで……。普通、仲良いクラスなら出し物に力入れると思うんだけどな」
「でも、今年は全然違う。コジローと一緒だから」
「だなー。俺もシオリと一緒に見て回るの楽しみだわ」
「ふふ。いっぱい見て回ろうね」
そんな彼女の可愛いお誘いに「おう」と澄まして返して黒い液体を体内に注入する。
「そういや、ぼちぼちだな、文化祭の出し物決めるの」
「次のLHRで決めるはず」
「あー、去年もそんな感じだったな。シオリは何か希望あるのか?」
尋ねると、シオリは一旦、スプーンを置いてから考える。
「――メイド喫茶とか」
言われて、メイド姿のシオリを瞬時に思い浮かべて顔がニヤける。
「お前みたいなメイドがいたら金めっちゃ落とすわ」
「おかえりなさいませ。ご主人様」
「あー……」
「――なに? その反応」
「いや……」
見た目は完璧だけど、シオリみたいなタイプがメイドの台詞を言っても……何だろう……。そうだな……萌えないって感じか……。
いや、見た目は良いよ。トップ、オブ、トップメイドになるだろうけど……。
やっぱり声って大事なんだな。アニメの声優さんの凄さが再認識される。
「今、ムカつく事考えてる」
「いやいや、メイド姿のシオリを妄想して悶えていたところだよ」
「うそ。コジローのうそはすぐにわかる」
不機嫌に言うと「ムゥ……見とけよ……」と何か対抗心的な感情が見えた。
「お、俺はさ、文化祭といえば屋台だと思ってるんだよな。たこ焼きとか」
言うとシオリは「ほぅ」と興味を持ってくれる。
「屋台あると『お祭り』って感じが出てテンション上がるだろ?」
「確かに。その考えは否めない」
「だろ? だからたこ焼きやりたいなって」
「でも、なんでたこ焼きなの? 他にも屋台っていっぱいあるじゃん」
「何か良くない?『らっしゃい』って言いながらたこ焼きを、こう、しゅぱぱぱぱ! ってやるの」
「他の屋台も同じ様な物だと思うけど……」
「うっ……」
シオリの指摘に、確かに、と納得してしまう。
「ま、まぁ、良いじゃんか、たこ焼き好きなんだし。シオリには特別にたこを二つ入れてやるからさ」
「コジローのクラスがたこ焼きになればの話でしょ?」
「あー……まぁそうだな。――でも、ウチのクラス団結力低いから決まるか心配だわ」
「そうだね……。六組って仲悪いイメージ」
「シオリのクラスは仲良いよな?」
「うーん……ぼちぼち?」
「だったらサクッと決まりそうで良いな」
「どうだろうね。私のクラスもリーダーみたいな子がいないから、団結力って意味では低いかも」
苦笑いをしながらパフェを食べているシオリを見ていると「食べる?」と言われてスプーンですくったパフェを差し出してくる。
俺は無言でスプーンを口に運んでもらい一言放つ。
「パフェもありか」
「コジローは食べ物系からは離れられないんだね」
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