第127話 実家での朝
鳴り響く機械音は強制的に夢の世界からの帰還を命じてくる。
耳音で震えながら音を出すスマホは、寝ぼけながらも、床に寝転がって駄々をこねている子供みたいだと思ってしまう。
「――ふぁ……」
『――イヤーボール』
「序盤の魔法?」
『勘違いするな。今のはエクスプロージョンじゃない。ファイヤーボールだ』
「なんかどこかで似たような台詞を聞いた事のあるな……」
言いながら身体を起こす。
「おはよう……シオリ……」
『おはよう。何分くらいに駅着きそう?」
「んー。今からだったら……」
一旦、耳からスマホを離して画面に映る時間を確認する。
「八時十五分くらい?」
『遅くない?』
「ここから学校遠いんだよ」
『登校時間三ベェだもんね』
「手から光線の類がでる人?」
『おっす。オラ、シオリ。ワクワクすっぞ』
「全然ワクワク感を感じ取れないな」
『ほらほら、さっさと準備してよね。遅刻したらグーパンだから』
そう言って切られる。
可愛い声してグーパンとか言うなよ……。
スマホを一旦ベッドに置いて、久しぶりの制服に袖を通す。
長い事着ていなかったので少し違和感があるがそれもすぐに慣れるだろう。
今日寝たベッドも、慣れているはずなのになんだか初めて寝転がるベッドみたいで寝心地が悪いと思ったのに気が付いたら熟睡していたのだから。
部屋を出て階段を降りる。
リビングのドアは閉まっているが、そこから漏れて聞こえてくるテレビの音。それが既に両親がリビングにいる事を表している。
まだリビングには入らずに洗面台で顔を洗い、歯を磨いた所でリビングのドアを開けた。
『じゃんけん……ポン!』
「ポン! ウェーイ!」
「あー。負けたぁ」
「まじ余裕ー」
「昔から強いわよねー」
「ふふ。これで今日の俺の運勢は最高だ」
「星占いじゃないわよ?」
朝起きると、テレビのじゃんけんコーナーをやっている中年夫婦を見て、あー俺は実家で暮らす事になったんだな、と実感する。
「お? コジ。起きたか」
「おはようコー」
「おはようさん……」
朝に挨拶を済ますと、いつものダイニングテーブルに座り、目の前に並べらている朝食をとることにする。
「あ、お味噌汁忘れてた」
母さんが席を立ちカウンターキッチンへ向かった所で父さんがテレビから視線をこちらに向ける。
「今日はやけに早いな。あれか? 久しぶりの学校が楽しみなパターンか?」
「ちげーよ……。中学と違ってここから時間かかるから、これでも余裕はあんまりないんだよ。あっちに住んでた時はもっと寝れたけどな」
「かぁ羨ましいねぇ。寝れるってのは」
「いやいや。俺からしたら、毎日早起きの父さんと母さんの方が羨ましいけど」
「早起きねぇ……」
父さんが呟くと、味噌汁を持ってきてくれた母さんが笑いながら言ってくる。
「お父さん、子供の頃は毎朝毎朝寝坊してたのにね」
「へぇ……。なんか想像できないな」
「いつからか……大学の四年生位? スッと起きるようになったのよ」
父さんは「そうそう」と頷く。
「昔はコジより酷かったな」
「ねー? 何しても起きないから、いつもペットボトル乱舞をかましてたわ」
「あー……母さんの必殺技ね。あれ、絶対起きるから良いんだけど、やかましすぎるからな」
「相手が起きるまで乱舞をやめない。それが大事」
「当たり前の事を名言風に言っているだけじゃ?」
俺のツッコミに母さんはピースサインで返してくる。
「――そういや、借りてるマンションだけど、父さんが解約してくれるんだよな?」
別に必要ない父さんの情報よりも、俺は気になる話題を上げると「あー」と声を漏らす。
「まぁ……俺が解約しとくけど……」
「その時は言ってくれ。部屋の解約がどんな感じでするのか知りたいから」
「――本当に良いのか?」
「ん?」
父さんの質問の後、母さんが言ってくれる。
「わざわざ無理してこっちで暮らさなくても良いのよ?」
「そうそう。コジはもう一人でもやっていけるって実績を作ってるんだから」
「会えない距離にいる訳じゃないし」
両親の言葉に俺は首を横に振る。
「金銭的な面もそうだけど……。やっぱ、シオリだよ。うん。シオリも実家に帰っているのに俺だけ一人暮らしって何かフェアじゃないし。シオリの事と金銭的な事を考えて決めた事だから」
「そう……」
母さんがチラリを父さんを見るので俺は疑問をぶつけた。
「逆に俺がここにいることが不都合?」
「いやー……」
「それは……」
「な、何だよ……」
父さんは頭をかきながら答えてくる。
「お前のマンションにある家具……置くとこないから解約しなくても良いかな? って」
「理由がしょぼい!!」
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