第113話 想いを告げる前の接触

「偉い目にあったな……」


 ルカちゃんの強烈な一撃をくらい、俺達は下着までびしょびしょになってしまう。


 先程スタッフさんからのご厚意でいただいた水族館限定Tシャツとタオルをいただいたのでトイレの個室でさっさと着替える。


 シオリは「夏だからすぐに乾く」とあまり気にしていない様子だった。

 彼女が良いのならこちらも全然気にしないので、このまま水族館を楽しむとしよう。


「――あれ……なんで水族館来たんだっけ?」


 Tシャツに着替えて個室から出る。

 何気なしに手を洗い、鏡の中の自分に違和感を抱きつつ、なんとなく心がスッキリしないままトイレを出る。


「――おい……」


 聞き覚えのあるイケメンボイスが聞こえたかと思えば、肩をガシッと掴まれる。


「何してんだ……」


 振り返り、イケメン眼鏡を見た瞬間に、何かのスイッチが入ったかの様に思い出す。


「ああ! 思い出した!!」

「何を?」


 少し怒り気味の声に答える。


「冬馬と四条のデートを尾行してたんだ!」


 ポンと手を叩くと怒られる。


「尾行相手に何を堂々と言っているんだ、貴様は」

「あ、あははー……」


 苦笑いしか出ずにいると冬馬は俺の格好を見て行ってくる。


「なんで尾行している奴が水族館エンジョイしてんだよ! てか、コソコソする気ないだろ! イルカショーでド派手に目立ちやがって!」

「あ、見てたの?」

「見てたわ! こちとらびっくりだわ! 二人がいる事も、下手くそな変装している事もなっ!」


 言いながら、冬馬に眼鏡を取り上げられてしまう。


「わりぃわりぃ。シオリと水族館にいると楽しくて、つい忘れてた」

「バカップルめ……。――邪魔はしてくれるなよ」

「しないっての。――てか、そもそもは冬馬がシオリにメッセージ送るからだろ。黙っとけば良かったのに」


 黒づくめで尾行しようとするとは思わなかったけどな……。


「そ、それは……。その……」


 いきなり言葉が詰まった冬馬に「ん?」と尋ねると咳払いをして答えてくれる。


「逃げ道を塞いだんだ。七瀬川さんに伝えることで、今日がダメなら次がある。――じゃなくて、今日告白しないといけない、とな」


 だが、と冬馬が少し沈んだ声を出す。


「何故だろうか……。今日は決めたはずなのに中々うまいこと行かない……」


 少し泣きそうな声に俺は元気つけるための声かけをする。


「もうお前らレベルまでいったら、普通に電話でも告白出来る感じだろ? この後すぐ告ったら良いんじゃない?」

「そうは言うが……」


 何かを言いかけた後に冬馬はポケットからスマホを取り出して画面を見た。


 操作していると冬馬が軽く吹き出して「全くお前らは……」と呆れた声を出された後に溜息混じりで言われてしまう。


「それが体育祭の競技中に誰もいない教室に忍び込んで告白した奴等の台詞か……」

「その際は本当にお世話になりました」


 苦笑いを浮かべると、冬馬はポンと俺の肩に手を置いて真剣な顔を見してくる。


「今度は俺の番だ……」


 シオリ程ではないが、どちらかと言うとクールな冬馬が見せるその表情には覚悟が見えた。


「無事に終わったらまた四人で何処か行こうぜ。ダブルデートだ」


 そう言うと冬馬は少し嬉しそうに言い返した。


「その未来は近いうちに叶うだろう」


 そう言い残すと冬馬は歩き出す。おそらく四条の下だろう。


 そんな彼の後ろ姿を見送ると俺のスマホがポケットで震え出す。


 シオリかな? なんて深く考えないでスマホを取り出して画面を見る。


 ――それが今後、俺とシオリに試練を与える始まりの着信だとは知らずに……。


「もしもし――」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る