第106話 四人で花火大会
リビングにて四人で軽く談笑した後に女子二人は「浴衣着てくる」と言って家を出て行った。
どうやら四条の家に浴衣があるみたいで、それをシオリに貸してあげるらしい。
バイクで来ている為、ここから四条の家は三十分もあれば着くらしいのでシオリを乗せて四条家に帰宅して行った。
四条のヘルメット姿や、この前プールで見たハーレム軍団もそうだったが、やはり美少女のヘルメット姿は映える。
特にシオリのヴィンテージ型のヘルメット姿はカッコいいと美しいを掛け合わせた何とも言えない美の姿で、あんな子を後ろに乗せてツーリングでもしたら最高だろうな、と思ってしまう。
女子がいなくなり、リビングに残ったのは男子だけ。
男二人だが、むさ苦しさを感じさせないのは冬馬が美男子だからだろう。
「何か久しぶりだな」
冬馬はダイニングテーブルに座っており、眼鏡をクイっとしながら言ってくる。
「そうか? まだ夏休み始まってからそんなに経ってないと思うけど?」
ダイニングテーブルの奥にあるソファーに腰掛けて、別に見る訳でもないがテレビを点けながら答える。
「そうじゃない。中学の時から高校の秋頃まではずっと一緒だったのが、今はあまり二人でいる事が少なくなったからな」
「まぁ……そうだな……」
「今となっては、許嫁という名の彼女と所構わずイチャイチャベタベタしてるからな……」
「所構ってるだろ!」
ソファーの背もたれに腕を乗せて振り返ると冬馬の眼鏡が光る。
「あれで?」
「いやいやいやいや! 俺達は場をわきまえてるって」
言うと、冬馬は煽る様に眼鏡をクイクイしてくる。
「何か言いたげだな」
「別に」
「なんだよ? 言ってみろよ?」
「――バカップル……」
ボソリと聞こえる程度の小さな声に「――なっ!?」と反応してしまう。
「ば、バカップルってあれだろ!? 脇目も振らずに『あ〜ん』とかしたりする奴等だろ? ――俺等じゃん……」
「ノリツッコミか」
「そ、そう言う冬馬達はどうなんだ!?」
俺は勢い良く立ち上がり、ダイニングテーブルの冬馬の前に座る。
「どうとは?」
食い付いたおかげで話が逸れそうだ。
「四条とは何か進展とかないのか?」
彼女には既に聞いたが、何も知らないフリして聞いて見ると、難しい顔をして眼鏡をクイッとする。
「実は……今日の花火大会は純恋と二人で行きたいと思っていてな」
「それが何で四人になってるんだ?」
四条にした質問と同じ言葉を投げる。
「涼しい顔して『四人で行こう』って」
どうやら冬馬にはテンパった四条が涼しい顔をしている様に見えたらしい。
「やはり、フラれたからと次の女性に行く様な軽薄な男は遠慮って所か……」
「いやいや。冬馬はちゃんとケジメをつけたんだから、次の恋に行くのは何も悪くないと思う。それに、もし遠慮ってなら、四条もお前と一緒に行動なんてしないだろう」
「本当にそうだろうか……。そもそも純恋が俺の事を好きだなんて自惚れも良い所だったかも……」
メンタル弱いなぁ……。
二人に少しすれ違いが見えるので俺はドンと胸を叩いた。
「任せろ。今日の花火大会は二人っきりにしてやるよ」
元々四条にもそう言ったので、その予定だがね。
「ふむ……。しかしな小次郎。俺はみんなで楽しむのも良いと思ってるぞ?」
四条と同じ解答。
「遠慮するな。大船に乗ったつもりでいろよ」
言うと、冬馬は眼鏡を光らせてこちらを見てくる。
「な、なんだよ?」
「――小次郎が七瀬川さんと一緒にいたいだけじゃないのか?」
先程聞いた台詞の男バージョンなだけの問い。
「ちげーよ。あれだよ? 友人二人の恋模様を手伝いたい純粋な思いだよ?」
「ほう……」
冬馬は全く信用していない様で、眼鏡を光らせ続けた。
いや! もう熟年夫婦並みに思考同じじゃねーかよ! はよ付き合え!
「と、ともかく! 今日の夜は期待しとけ。最高の舞台を用意してやる」
「花火大会っていう舞台は整ってるがな」
嫌味も一緒とかなんなのこいつら……。
♢
午後六時に花火大会の最寄駅に集合。
――という訳で、俺と冬馬は全国でも有名な花火大会会場の最寄駅へやって来る。
流石は全国でも有名なだけあって人でごった返している。
電車は超満員で降りたホームから改札まで牛歩だった。
ようやく外に出られたは良いが見渡す限りの人、人、人。
駅の真前にあるコンビニは長蛇の列が出来ており、コンビニ前にも待ち合わせの目印としているのか、人が沢山いる。
だが、イケメン二人が立っている隣にスペースがあったのでそこで冬馬と二人して待つ。
「凄い人だな」
スマホをいじりながら冬馬が言ってくる。
「昔からこんなんだっけ?」
「こんなもんだな」
「これ、あいつら大丈夫かな?」
「着慣れない格好であの人混みは苦労するだろう」
「かといって改札で待っとくのは無謀だな」
「ここで待つのがベストだろうな」
「だな」
そんな会話をしていると、横に立って仲よさそうに喋っていたイケメン二人の前に女の子がやって来て、イケメンの片割れと会場へ向かって行った。
どういう事? 一緒に行かないの? もう一人の方は罰ゲームで待機? とツッコミたくなるが、ここでそんなツッコミを入れると変態だと思われるので我慢しておく。
「――でもあれだな冬馬。これなら簡単に逸れられるな」
にしし、と笑いながら言うと眼鏡をクイっとされるだけで無視される。
ほんと、こういうからかいに慣れない奴……。
別に無理して冬馬と喋らないと気まずい関係、なんて事もない為、話のネタも特にないから俺もスマホをいじりながら二人の到着を待つ。
カランカランと足音が聞こえ近くで止まったので、来たのかな? と思いパッと前を見る。
――うわ……すげー美人だな……。
俺達の待ち人では無く、隣のイケメンの待ち人だったらしい。
ショートカットの美少女がイケメンの前に立ち、イケメンは呆然と彼女に見惚れていた。
いや! 何分見つめ合ってんねん!
――なんてツッコミを入れたくなる位に見つめ合うと、イケメンと美少女は何だか甘酸っぱい雰囲気を醸し出して人混みに紛れて行った。
ふむ……かなりの美少女だったな。シオリがショートカットにしたらあんな感じか? 何処となくシオリに似ている気がしたが……。
――あー……。ショートカットのシオリも見てみたいな。絶対似合うよな。顔整ってるし。
でも! シオリと言えばロングヘアだから切って欲しくない。それは確かだ。
でも見たい。いやでも――。
そんな答えの出ない葛藤の中で唯一答えが分かる事がある。
――ま! 俺のシオリの方が断然美少女だけどな! なんたって冷徹無双の天使様だからな! かっかっかっ。
「小次郎……。お前脳内でマウント取るなよ……」
呆れた声が隣から聞こえてきた。
「へ? わかる?」
「何年一緒だと思ってるんだ……。さっきの娘見て七瀬川さんの方が可愛いとか何とか思ってたんだろ?」
「あはは。――まぁあの娘もかなり美少女だったがね。シオリが美少女過ぎるのだ。ふっ……」
「バカップル過ぎるだろ……」
呆れを通り越したかの様な冬馬の声の後に「お待たせー」と聞き慣れた元気な声が聞こえてくる。
その声に二人して反応すると――。
二人の天使が浴衣を来てこちらにやって来た。
良くドラマやアニメで女の子が登場する時にキラキラのエフェクトが追加されているが、目の前の天使達はそんな編集しなくても肉眼でキラキラが見える。
四条は花飾りを付けてかなり可愛いという印象。
だが、俺の目を奪ったのはやはりシオリだ。
いつもの長い髪を上げてかんざしで止めているアップヘアは美少女から美女、キュートからセクシー、子供から大人の女性へ変化したかの様な……。つまり、その……髪型が非常に良い。
そして、やはりシオリは水色が似合う。
上品で落ち着いたデザインの浴衣は暑い夏にピッタリな涼しげな印象。
手に持った巾着袋はシンプルなデザインだが、シオリは何を持っても華になる。
下駄を見ると鼻緒の部分に花柄が描かれており、遊び心が見える可愛い下駄である。
頭の先から爪の先まで尊い。
「コジロー?」
目の前に立つ夏の天使が俺を呼ぶ。
危ない危ない。先程のカップルみたいに呆然と見つめ合ってしまう所だった。
「ど、どうかな?」
浴衣の袖の部分を摘んで身体を左右に半転させながら聞いてくる。
「髪型も浴衣も全部似合ってる。ありがとう」
「え……。何でありがとう?」
「いや、言葉に出来ない位な表現が頭の中に渦巻いてるんだけど……綺麗とか似合ってるを通り越して、最早生まれてきてありがとうかと……」
「なにそれ……」
少し照れながら視線を逸らされてしまう。
これ、多分想いを伝えてなかったらこの場で勢いで告白してたかも……。
なんて思いながら隣を見ると――。
「何分見つめ合ってんねん……」
冬馬と四条は先程のカップルよりもずっと長い時間見つめ合っていた。
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