第67話 昼の過ごし方

 三限終わりの休み時間。


「一色くーん」


 スマホゲームをして時間を潰していると、いきなり四条が俺の前にやって来た。


「どしたよ?」


 スマホを机に置いて問いかける。


「四組凄い事になってるよー。見た?」

「四組……? いや、見てないな。何かあったの?」

「何かあったの? ――じゃないよー。汐梨ちゃんに許嫁がいるって騒ぎになってるんだよー」

「いっ……」


 あの先輩が言いふらしたのか、誰かが俺の台詞を聞いたのか分からないが、昨日の今日で噂が広まるのが早い事で。


 四条が耳打ちで聞いてくる。


「一色君が我慢出来ずに誰かに自慢したの?」


 そう言って来た後の四条のニタニタした顔。腹が立つのは、その顔すらも可愛いらしいという事だろうか。


「それは――」

「あ! やっぱり待った!」


 四条が手で停止してくるポーズを取ってくる。


「それはこの後じっくりと聞く事にするよ」

「この後?」


 首を傾げると「あれ? 聞いてない?」と四条も同じく首を傾げてくる。


「今日のお昼、汐梨ちゃんと私も一緒に食べるって」

「いや――あー……」


 そういえば昨日の昼間に冬馬が何か閃いていたな。それがこれか――。最高かよ……。


「あ、迷惑だった?」

「いやいや。俺は賛成だけど、四条的には良いの?」

「私も大賛成だよ。みんなでご飯って楽しいし」


 そう言われた後に更にニタリと笑ってやる。


「根掘り葉掘り聞いてあげるね」

「――ほどほどで……」







 本日の学食もいつもと変わらず喧騒に包まれている。


 しかし、いつもと違うのは、同じテーブルに学校でも有名な美少女が二人同じテーブルにいる事だ。

 何回かシオリと昼を過ごした事があるが、その時でも注目を浴びていたというのに、そこに四条が加われば注目度が倍増。更に言えば、イケメン眼鏡くんもいるので、なんちゅう美形揃いのテーブルだ。芸能人が通う学校の学食かよ。


「――っていう訳だ」


 学食の喧騒が幸いし、周りにこちらの話が漏れにくいので、通常通りの声で向かいの席に座っている二人に昨日の事を話終える。


「なるほどな」


 眼鏡を曇らせて飽きずにまたうどんをすする冬馬。

 そんな俺も、二年生になったら新メニューを開拓すると言っておきながらそばをすすっている。だって昨日の焼き鳥丼が微妙すぎたから。


「ほほー。ふーん」


 四条は毎日弁当派みたいで、可愛らしい弁当をつつきながらこちらをニタニタと笑い、何か言う訳でもなくひたすらに笑ってくる。


「だから別に名前出して自慢したとかそんなんじゃない」

「ふむ……。確かに許嫁がいると言う噂は立ったが、許嫁が誰かまでは皆分かっていない様子だったな。ま、だから今日、七瀬川さんの所に質問攻めが来た訳だ。しかし大丈夫か? あれほどの数……うざかっただろ」

「平気」


 冬馬の心配の声に、シオリはコンビニで買ったパンをかじりながら答えた。

 どうやらシオリも当日に一緒に食べる事を知らされたらしい。


「汐梨ちゃん素直に答えたの?」

「ありのままを答えた」


 そう言うシオリに「ありのまま?」と質問するとクスリと笑ってくる。


「安心して。コジローの名前は出していない」


 そう言われて、別に出してくれても良かったのに、何て思う自分がいることに気がついて、以前と心変わりしたなぁ、何てしみじみ思う。


「でも、これは良い機会。存分に利用させてもらう」


 シオリの言葉の次に冬馬が納得したように言った。


「なるほど……。許嫁がいると言うことで男子共から声をかけられないようにするのか」

「そゆこと」

「魔除けならぬ男子除けだね」

「四条……。お前もネーミングセンスないな」

「あれ? 微妙だった? あははー」


 そんな会話を繰り広げていると、やはり周りのこちらへの視線が気になる。


 何だか動物園のパンダにでもなった気分だ。


 食事くらいゆっくりさせて欲しいものだ。


 それは俺だけではなく、皆感じているみたいで、少し嫌悪感に包まれる空気になる。


「あれだな……。何か食いにくいな」


 居た堪れなくなった俺が気不味い声を出すと四条が同意の声をあげる。


「そうだね……。学食ってうるさいし、ちょっと私には向いてないかも」

「ふむ……。なら次回は場所を変えるか?」

「あ、賛成。――でも、どこ?」

「部室とか?」

「あー、良いかも。夏希ちゃんに声かけとけば一色君と汐梨ちゃんも入れるし」

「しかし、そうなるとコンビニ飯になるな」

「冬馬君学食好きなの?」

「いや、安いだけだ。コンビニ飯だと高くついてしまうからな」

「うーん……。――なら!」


 パンと手を叩いて四条が閃いた。


「お弁当作ってきてあげようか?」


 少し照れながら四条が冬馬に言う。

 

 物凄くナチュラルに冬馬にアタックしている四条を見て、内心、サッカーのサポーターの様に熱い応援を送る。


「しかし純恋に悪い」


 あー! バータレ! なんで素直に作って貰わない! お前が好きなのは四条じゃないかも知れないけど、女の子が弁当を作ってあげると言っているということは好意剥き出しって事だろ! 気づけよ! その眼鏡はなんの為につけているんだ! 馬鹿者め!


「な? シオリ。今度、弁当作ってくれない」


 俺はすかさずシオリに話題を振った。


「――え……?」


 いきなりの事でシオリはびっくりした声を出す。


「ほら、コンビニ飯だと冬馬が言った通り高くつくしさ」


 俺は下手くそなウィンクをシオリにすると、ドン引きされてしまう。


 なんでこいつは気がつかない。ちょっと鈍感なところも可愛いな! くそ!


「そうだよ! 冬馬! お前は四条に作ってもらえよ! 俺はシオリに作ってもらうから」


 俺が冬馬に言うと、四条はすぐに気がついたみたいで、小刻みに頷きながら冬馬に言った。


「うんうん。別に一人分も二人分も変わらないよ!」

「う、うぬ……。そ、そうか? ――では……。本当に良いのか?」

「良いよ。良いよ! 全然良い!」

「では頼む」

「うん!」


 四条は嬉しそうに頷いた後にこちらを見てアイドルみたいにウィンクしてくる。

 それに対してウィンクを送ると、隣でシオリが更にドン引きしていた。


 どうやら、まだ気がついていないらしい。

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