第61話 許嫁の膝枕を断れるはずがない
今日の晩御飯はすこぶる美味しかった。
本日のディナーはオムライス。
ほんのりバターの風味がして、ケチャップの味もしつこくなく、絶妙な味付け。
味付けもさることながら、シオリは目の前で卵の表面を切断してくれると、トロトロの卵がまるで宝石を散りばめた様にチキンライスを包んでいった。
そんなキラキラに見えるオムライスとは対照にシオリは無表情だった。
顔は無表情だけど、雰囲気が怒っているというか、萎えているとか、そんな感じだ。
いや、無表情で包丁持ってる姿とかめちゃくちゃ怖いから。身の毛もよだったよ。まじで。
「今日のオムライス美味しかったわー」
ソファーに座り、気を使う様な言葉が出てしまった。
本音なのだが、言い方が自分でもそう感じてしまう。
だって、さっきからシオリが沈黙を続けるから話しかけないと何か怖い。
そんな俺の言葉を無視して、洗い物を終えたシオリは隣にちょこんと座り、流れているテレビを見ながら答えた。
「いやー。シオリのオムライスは最高だなー。また食いたいなー」
「そう」
「毎日でも食いたいなー」
「そう」
「明日も作ってくれない? ――なんちって」
「そう」
三連そうを頂きました。こんなもんどう返せば良いのやら……。
次の話題を出すか、部屋に逃げるか考えているとシオリが小さく呟いた。
「――一緒のクラスじゃ無かったね……」
寂しそうな声を出して、シオリは体育座りになり、足に手を回して自分自身を包み混んだ。
その姿は雨に濡れた子猫の様である。
「そう……だな……」
何て声をかければ良いのか。
明るく「クラスとか関係ないって」といえば良いのか、悲しそうに「俺もシオリと同じが良かった」と言えば良いのか……。
選択を悩んでいるとシオリが「はぁ」と可愛い溜息を吐いた。
「一緒だったら幸せだったのに」
幸せ。
シオリはそこまで俺と同じクラスが良かったのか。
そう言われて照れてしまう反面、やっぱり同じクラスが良かったと本心から思えてしまう。
「俺もシオリと同じが良かった。シオリと同じクラスなら二年生も楽しかったのにな」
悩んだ結果出したのは、俺はシオリと同じ感情だよ、という台詞。
それを聞いてシオリはクールに俺を見てくる。
「コジロー」
「ん?」
「私、今は純恋ちゃんと離れて悲しいって言ってるんだけど……」
「――え?」
俺は相当間抜けな顔をしていた事だろう。
そんな俺を見てシオリは幼い少女の様な笑みで「ぷくく」と独特の笑い方を見してくる。
「そんなに私と同じクラスが良かったんだ?」
「――なっ!」
幼い少女みたいな笑みと思ったら次は小悪魔みたいな笑みで言ってくるから言葉に詰まる。
「ば、バーカ! しょ、しょんなわきぇ――」
「そんなアタフタしながら言われても……」
「うっ――。うるへー!」
「しょうがない」
今度は、やれやれ、と言わんばかりの溜息を吐くと、足を伸ばして自分の膝を軽くポンポンと叩く。
「仕方ないから頭撫でてあげるよ」
シオリは手招きしながら「おいでー」と言ってくる。
「――い、いやいや……。頭撫でるって言っておいて、何で膝枕の格好なんだよ」
「こっちの方が撫でやすいから」
「撫でやすいって……。し、シオリはそんな事をして恥ずかしく――」
「嫌ならやらないよ?」
「失礼します」
美少女の膝枕を拒否する奴なんてこの世の中にいるのだろうか? ――否! いない!
俺は欲望のままにシオリの膝へ頭を預ける。
彼女は痩せ型でモデルを思わせる体型だ。そんな彼女の太ももは失礼だが、正直骨のように硬いのだろうと思ったが、布越しでも伝わってくるのは女性特有の柔らかさ。そして、甘い、男性フェロモンをくすぐる匂いに酔ってしまいそうになる。
そして、次の瞬間、彼女の細く、柔らかい手で俺の頭が撫でられる。
なんともいえない気持ち。
昔、親に頭を撫でられたのとは違う感情。
嬉しいのか、照れくさいのか、分からない。
そういえばシオリが言っていたな――。
「これ、好きかも」
つい、言葉に出してしまうと「ぷくっ」とシオリが吹き出した。
「コジローは甘えん坊なんだね」
「いや、お前だって俺のなでなでが好きって言ってたろ」
「さぁ? 言ったっけ?」
「脳みそカナブンか! この間言ったばかりだろ」
「むっ。――そんな意地悪言うコジローにはお仕置き」
怒った口調でシオリは首筋をこちょこちょしてくる。
「あっ! あひゃ! あひゃひゃひゃひゃ! や! やめ!」
「ごめんなさいは?」
「ラーメン、つけ麺、まじごめん」
「つまんない」
「あーひゃひゃひゃひゃ! ちょ! ごめ! ごめんて」
「もう意地悪言わない?」
「言いません! 言いませんから!」
「よし」
シオリはくすぐりをやめて、再度頭を撫で出した。
また何か言うとからかわれるので黙って撫でられていると、段々と瞼が重くなってくる。
「――どう? 少しは寂しさが和らいだ?」
「ふぁーあ……。ん……。和らいだ……かな……」
夕飯を食べたのと、身体をくすぐられて大笑いをしたのと、彼女のなでなでが気持ちよくて段々と眠たくなる。
「眠たい?」
「ん……。だいじょぶ……」
言葉ではそう言っても、もうほぼ微睡の中である。
「良いよ。寝て」
「ん……すぅ……」
限界が来て瞳を閉じると「本当はコジローの事だよ」何て言われて、ほぼ夢の中の俺にはその意味は理解することは出来ずに、夢の世界へと旅立った。
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