第12話 許嫁と話し合い

 六点セットの布団を購入。中身は敷布団、掛布団、枕、敷布団カバー、掛布団カバー、枕カバーとなっている。

 安物なので先程の雲に包まれた感覚ではないだろうが、十分であろう。




 帰宅後、家で冷凍パスタを食べ終えた後、お互いに風呂に入る。


 今日は昨日みたいな超絶ラッキースケベ――ラッキースケベというか堂々スケベというか――が起きなかったのは少し残念だが、それが普通だ。


 ともあれ、風呂に入って就寝準備に入る。


 リビングにあるソファーの前のセンターテーブルを端に寄せて、そこに布団を敷いて寝床の完成だ。


「どうする?」


 今日も部屋着を貸してやり、俺が着るはずだった服は心無しかシオリに着られてイキイキしている気がした。

 うん。やっぱり自分の部屋着を美少女が着ると何か興奮するね。


「どうするって?」


 俺の主語なしの問いかけに首を傾げる。


「あれだったらシオリがベッドでも良いけど?」

「それはダメ。ここはコジローの家なんだからコジローがそっちじゃないと」

「そ、そう?」

「そう」


 女の子だから譲ってあげても良かったのだが、本人もそう言っているし、変に気を使わせるのも気が引けるので「じゃあそれで良いか」と答える。


「もう寝る?」


 シオリが聞いてくるので俺は時計を見た。

 まだ短針が十と十一の間にあるので微妙な時間と言えよう。


「シオリは?」

「寝るには少し早いから起きておく」

「なら、色々話あるんだけど良い?」


 聞くとシオリは頷いてくれるのでダイニングテーブルへお互い移る事にする。


 向かいあって座ると「話って?」とシオリが切り出してくる。


「あー。話というか、確認というか、決め事というか……」

「許嫁って事を学校で喋らない以外に色々って事?」

「そういう事。まず、大事な鍵なんだけど、玄関の所にキーフックあるだろ? あそこから一つ持って行ってくれ。無くさない様にな」

「分かった」


 シオリは頷いて答える。


「後、これは俺の失敗なんだけど……ごめん。散々俺がバラすなとか言っといて冬馬にバレた」


 頭を下げると別に怒った様子も無く、何のダメージも無さそうな感じであった。


「冬馬――六堂くん?」

「そうそう。シオリと名前で呼び合ってる事が不自然がられて追求されてな……。許嫁って事がバレた。でも居候している事まではバレてないから」

「別に私はどちらでも構わない」

「シオリは良いかも知れないが、俺の平穏な学生生活が阿鼻叫喚に変わるから知られたくないんだよ」


 そう言うとシオリは「阿鼻叫喚……」と呟く。


「それは大変」

「だろ? だからこれ以上の事はバレたくないからさ、お互い注意しよう」

「私にはバレる要素がない」


 自慢げに言ってくる彼女にツッコミを入れようとしたらすぐに言葉を追加してくる。


「だってわざわざ喋る人がいないから」

「――自虐なの? いじって良いの?」

「別にいじってもらって構わない」

「やめとくわ……」

「そう」


 これはいじりにくいので、次の話題に切り替える。


「あと、三波先生に呼び出されて聞いたんだけど、シオリって一人暮らししてる事になってんの?」

「そういう設定」

「設定ね……。ほんじゃそういう設定で今後行くんだな?」

「そのつもり。でも、何の問題もない。この事を喋る相手がいないから」

「お、おおん……」


 また答えにくい事を言われて少し気不味い雰囲気になる。


「――あ、後さ……。シオリは制服でウチ来たから服とか諸々無いよな?」

「ごめんなさい。結構バタバタしていて間違えて全部海外へ送ってしまった」

「海外か……。お父さんお母さんが気が付いて国際便で送って来たとしても時間がかかるな。それじゃあ土日にでも買いに行くか?」


 俺が彼女を誘うと何となく嬉しそうな雰囲気を出している気がした。


「良いの?」

「荷物多くなるかも知れないだろ? 荷物持ち位するさ。シオリが良いなら別に良いよ」


 そう言うとシオリは少し間を置いて聞いてくる。


「コジローはいないの?」

「ん?」


 彼女の主語のない言葉に首を傾げる。


「コジローは好きな人いないの?」

「いないな」


 俺が昨日聞いた質問と同じ内容。そして俺も彼女と同じ様に即答する。


「なんで?」

「コジローの好きなタイプが『自分を肯定してくれてノリの良い巨乳ショートヘア』と聞いたから」

「――ぶっ!」


 つい吹き出してしまった。


「聞こえて……ました?」

「バッチリ。変態だね」

「ノオオオオオオ!」


 俺は両手で顔を押さえて悶えてしまう。


 こんな美少女に罵られるのは快感に近いが、それと同時に恥ずかしさが押し寄せてくる。


「それに、もしコジローに片想いの人がいたのなら、私がここにいるのは申し訳がない」

「確かに彼女とか俺にいたら修羅場だろうな」

「それは大丈夫。コジローに彼女がいないのは十中八九分かっている」

「てめっ。どういう意味だ?」

「醸し出される童貞感」

「うっ!」


 グサっと胸をえぐる言葉に言い返せない。


 この子毒舌ね……。


「コジローに好きな人も彼女もいないなら、心置きなくお休みの日に買い物付き合ってもらえる」

「まぁ付き合いますよ。それくらい」


 ふぁーあ……。と欠伸が出て来たので俺は立ち上がる。


「――そんじゃそういう事で。俺は寝るわ」


 立ち上がりながら言うとシオリが「おやすみなさい」と言ってくるので「おやすみ」と返した。


 今日は気兼ねなく一人で寝れるが、シオリの温もりが無いのがちょっとだけ寂しかった。

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