第3話 許嫁は羞恥心がない
カチッ……。カチッ……。
リビングの時計が秒針を刻む音が聞こえる程の静寂。
シャアアアァァァ――。
そんな静寂だから風呂からシオリがシャワーを浴びている音がリビングまで聞こえてくる。
「今……シオリは裸……」
冷徹無双の天使様は、天使という名に相応しく生まれたままの姿をしているのか……。しかも俺がいつも入っている風呂で。
――ごくり……。生唾を飲んで脱衣所の扉を見つめてしまう。
そんなん興奮するに決まってるやん!
ダメだダメだ! このままじゃ理性が爆発する。
俺は邪な考えを消す為に元々予定していたバイト探しをする事にした。
スマホを取り出して操作をする。
今年の夏は短期のバイトで結構稼いだが、このまま収入源が無いのならすぐに底につくだろう。
――濡れた髪エロそうだな……。
長期で長く出来るバイトを探さないと。親の仕送りは生活費のみだからな。
――制服越しの胸は大き過ぎず、小さ過ぎず、丁度良い感じだよな……。
自分のやりたい事の為にも金を稼ぎたい。
――アソコはパイパ――。
「――えーっと……『一緒に気持ち良くなろうソープランド……』――って……頭の中風呂の事で一杯かっ!」
自分で自分にツッコミを入れてスマホをセンターテーブルに置く。
こんなんじゃ集中してバイト探しなんか出来やしない。
ソファーに深く腰掛けて今のとんでもない状況を再確認する。
俺の両親とシオリの両親は高校時代の先輩、後輩で昔から仲が良い。
そんな仲良しカップルが将来子供が出来たら結婚させようと約束し、俺達が生まれて、俺とシオリは許嫁になった。
ただ、両親達はお互い忙しく、中々会える機会が無かったから許嫁と伝える事を忘れていた。
そしてシオリの両親が海外出張となり、折角入学した高校を辞めたくないシオリだったが、一人娘を残すのは心許ない。
そこでたまたま高校が同じで一人暮らしをしている俺の家に居候させてもらおう。許嫁だし――ってか……。
「何だ? このとんでも展開……」
天井を見て出るのは溜息だった。
あいつの親は本当にそれで良いのか? こんな思春期ど真ん中の男子の家に自分の大事な一人娘を置いて行って……。
今度会ったら強めに言ってやろう。勿論、ウチの親にはお灸を添えてやらないとな!
密すぎる内容を思い返していると、いつの間にかシャワーの音が消えていた。そして、脱衣所のドアが開く音がする。
「コジロー」
もう上がったのか。もう少しゆっくりすると思ったが。
何て考えながら「んー?」と振り返りシオリを見る。
そこには生まれたままの姿のシオリの姿があった。
天使の様に透き通る白い肌に、年相応に成長した胸の先端は綺麗な淡いピンクの突起物が見えた。
ウェストは見事なくびれが出来ており、まるでモデルを思わせる。
そしてその下は――。
「――ぶっ!」
俺の脳内はキャパシティを余裕でオーバーして吹き出してしまう。このまま直視したら鼻血が出てしまうのではないだろうかと思う位に血液が逆流している気がする。
「お、おまっ! ふ、服!? 服は!?」
俺が動揺して言うとシオリは無表情のまま首にかけてあるタオルで頭を拭きながら答える。
「ない」
「ないって……」
「着替え持ってきてない」
「な、ないならないで脱衣所から呼べば良いだろ!? 裸で出て来るなよ!」
「どうして?」
「どうしてって……」
どうしてだろう……。うん。何でだ? 別にシオリが嫌がってないなら良いのではなかろうか?
あれ? これって俺が普通? シオリが普通? どっちが普通?
「――いやいや! 普通にダメだろ! 羞恥心を持てよ!」
「でも服がない。だからコジローに借りようと思った」
「わ、わかった! 貸してやる! 貸してやるから脱衣所に戻ってくれ!」
そう言うと相変わらずの無表情で回れ右して、頭を拭きながら脱衣所に戻って行った。
彼女が背を向けた時、唇に何か液体の様な物が付いた。それは鉄の味がしたんだ……。
――俺の妄想通りの身体だったな……。
♢
「――はぁ……。今日は疲れた……」
晩ご飯を食べて、風呂に入り、寝室のベッドに横になる。今日はコンビニに寄る元気も無かったから冷凍チャーハンにした。シオリは何も文句を言わずに無表情で食べてたな。
それにしても今日は内容が密過ぎて異常に疲れた。
クラスメイトが許嫁とか、許嫁が居候とか、居候が裸見せてくれるとか――。
あと、何だろうね? 美少女が男物のダボダボの服着るの尊いよな。特にパーカー。美少女パーカー首かけヘッドホンはやばい……。これはただの性癖だな……。
とにかく内容が濃過ぎて、こってりラーメン五杯は食った位に胃もたれする一日だ。
そんなツッコミ所満載の日だったからすぐに眠気がやって俺は瞳を閉じて寝そうになる。
薄れ行く意識の中、ベッドの中がもぞもぞとしているのに気が付く。
「――ん……?」
薄目を開けると隣に天使の顔があった。
「んだよ……。シオリか……。――すぅ……。すぅ……。――って!」
バッと身体を起こす。
「なにしてんだ!?」
「布団を剥がすと寒い」
「あ、ごめん……」
俺は注意されたので素直に謝り、掛布団を元の位置に戻して二人がベッドの中に入る様に掛ける。
「――違う違う! そういう事じゃない!」
俺のツッコミに人差し指を立てて唇に持っていき彼女は無機質に言ってくる。
「もう夜も深いから近所迷惑」
「常識あんじゃん! だったらこの状況おかしいって分かるだろ!?」
「夜はベッドで寝るもの」
「そうだけどっ! そうじゃないっ!」
「何を騒いでいるの?」
「何で冷静なんだよ!」
俺のツッコミが寝室に響く。
ツッコミを入れた後に、そういえば予備の布団なんて無い事に気が付いた。
友達を何回か泊めた事はあるが、そいつは武士みたいに座って寝てたからな。
もう秋も深くなって来て、冬に近付いて来ている。雑魚寝なんかしたら風邪を引くだろうし、女の子にソファーで寝ろなんて言えないよな。
ここは俺が折れるしかない。
「布団ないもんな。シオリはここで寝ろよ。俺はソファーで寝るわ」
俺はベッドから出て行こうとすると寝巻き代わりに来ているお気に入りのスポーツブランドのジャージの袖を掴まれる。
「許嫁は同じベッドで寝るものでしょ?」
「いや……。でも、許嫁って勝手に親が決めただけだろ」
「それが許嫁ってもの」
「――ぐぅ……」
流石は冷徹無双の天使様。論破される。
「シオリは良いのか? 俺と同じベッドで。何されるか分からないんだぞ?」
「何かするの?」
「お前な……」
さっき裸見てしまって悶々としているんだ。その中で同じベッドに潜り込んで来るとか……。俺も思春期ど真ん中の健全男子だ。このままでは狼と化すだろう。
だが……。シオリの瞳を見ていると俺の邪な考えは全て吸い込まれる様であった。それほどに澄んだ瞳をしている。
「ごめんなさい」
「え……?」
彼女の目を見ていると突然謝ってくる。
「友達もいた事なくて……。ましてや許嫁なんて初めてだから……。どう接して良いか分からなかった。だから私の行動が突拍子もなく、おかしいのであれば指摘して欲しい」
なるほどね。今まであまり人と接した事がない。友達もいない奴が許嫁とどう接して良いか分からない結果、あの距離感ね……。
――はぁ……。ホント……。クソみたいな男だったら良い様に使われてるぞ……。
「――明日、布団買いに行くわ。今日は狭いけどここで勘弁してくれ」
そう言って再びベッドの中に戻るとコクリと頷いてくれる。
ベッドの中はいつもと違い、シオリの温もりが感じられて――。
――こんなんまともに寝れるかっ!
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