笑ってる

門前払 勝無

第1話

「笑ってる」


 母が楽しそうにしていたー。


 楽しそうな母を見ていて遠くに感じた。二人の時はアタシを無表情で見ていた母はあの人と居るときは笑顔が絶えなかった。


 学校の帰り道は枯葉がアタシの足元を舞っていて、頭の上には桜の花びらが舞っていて、青空と曇が流し目で見ていた。アタシは独りっきりになってた。

 いつもの帰り道で迷子になってる。寂しくて悲しくて家が何処かに行ってしまったみたい…。赤く染まった空に豆腐屋の音が響く、街道にはたくさんの車が並んでいてたくさんの人が居るのに誰もアタシに気付いて居ない。アタシは透明になってるみたい。

 母のあの笑顔を思い返すと悲しくなってくる。


 なぜだろう…。


 いつも皆で遊んでる公園は今はアタシしか居ない。


 アタシは独りでブランコに座っている。

 足元のアリンコを見つめる。皆で並んで家に帰ってる…。


 なぁに、やってんだ!


 振り返るー母の彼氏だった。

 笑ってる…。


 ママがハルの好きなカレー作って待ってるから早く帰ろう。


 泣きたくないのに涙が溢れてきた。

 何でだろうー。


 なぁに、泣いてんだ。

 

 母の彼氏はアタシのランドセルを肩に背負って、アタシの手を握って二人で歩き始めた…。


 公園の向かいのアパートの二階がアタシの家ー。


 あ、見えてたんだ…。


 ベランダから母が手を振っている。


 笑ってるー。


おわり

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