第286話 三下
一方その頃、冒険者ギルドでナディアは首を捻っていた。
「う~ん...やっぱりあのカリナっていう女の子の顔、どっかで見たことがあるのよねぇ...どこだったかしら~? う~...喉まで出掛かっているんだけど出て来ないわぁ~...あ~...なんかモヤモヤするぅ~...」
その時だった。ギルドのドアを壊さんばかりの勢いで押し開け、足音荒く中に入って来た人物が居た。
「おい! アイツはどこだ!?」
「なんですかそれ? いきなりやって来て主語も無しに? 失礼じゃないですか? それが人にものを尋ねる態度なんですか?」
ナディアは不機嫌さを隠そうともしないでそう言い放った。
「やかましい! あの女がギルドの回しモンだってことは分かってんだ! さっさとあの女を、殺人鬼を出しやがれ!」
「だから一体誰のこと言ってるんですか? ウチは殺人鬼なんて雇っていませんよ? 失敬なこと言わないで下さいな、フランツさん」
「ふざけるなぁ! お前ら以外で誰がフローラの護衛を務めるって言うんだぁ!」
ナディアにフランツと呼ばれた男はますます激昂した。
「護衛!? あぁ、彼女のことですか。彼女がどうかしました!?」
守秘義務があるのでカリナの名前を出す訳にはいかない。
「どうもこうもない! あの女はウチの部下を5人も殺したんだぞ! 一体どうなっているんだ!? 冒険者はいつから殺人者集団になり下がった!?」
「落ち着いて下さいよ。一体どういう状況でそんなことになったのか説明して下さい。聞いた上で判断します」
「そ、それは...その...」
まさかフローラとカリナを襲おうとして返り討ちに遭ったとは言えない。ここに来てフランツのトーンが一気に下がった。
「彼女は理由もなく人殺しをするような人物にはとても見えません。そうなったからにはきっと、そうせざるを得なかった明確な理由があるはずです。例えば護衛任務中だったとか。フランツさん、もしかしたら自分の手駒を彼女に差し向けたりとかしたんじゃありませんか?」
「うぐ...」
図星を突かれたフランツは言葉に詰まった。
「ハァ...」
ナディアは大きなため息を一つ吐いた後、
「いいですか、フランツさん。あなたはフローラさんに対するストーカー容疑を掛けられているんですよ? その上襲撃まで指示するだなんて...呆れた話ですね...それで返り討ちに遭っているんだからとんだお笑い草です。フランツさん、これ以上罪を重ねる気なら冒険者ギルドとしても黙っていませんよ?」
「うぅ...く、クソッ! お、覚えてろよ!」
三下丸出しのセリフを吐いてフランツは逃げるように出て行った。
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