第284話 無自覚

「どうぞ。散らかってますけど」


「お邪魔しま~す」


 フローラさんの借りているアパートは、2LDKで風呂トイレ付きというシンプルな造りだった。


「こんな安アパートで申し訳ないです...」


 フローラさんは恥ずかしそうに呟くが、若い女性の一人暮らしならこんなもんだろうと思う。


「そんなこと気にしないで下さいよ。とっても可愛いらしいお部屋じゃないですか」


 実際、可愛いぬいぐるみやお洒落な小物などで溢れていて、まさしく女の人の部屋っていう感じがするし、なんかよう分からんけど良い匂いもする。


「フローラさん、お疲れでしょう? 先にお風呂入っちゃって下さいな? 私はその間に、このアパートの周りを見回っておきますから。さすがに今夜はもう来ないと思いますが念のため」


「分かりました。すいません、お先にお風呂頂きます」


 

◇◇◇



 フローラさんのアパートは町の大通りから道を一本外れた所にある。人通りがあんまり無い通りに面しているので、隠れようと思えばいくらでも隠れられそうな場所がある。


 私はそのような場所を一つずつしらみ潰しに当たって行って、つぶさに安全を確認して回った。


「良し。こんな所かな」


 物陰からいきなり襲われたりしたら、いくら私でも助けが間に合わない場合があるからね。用心するに越したことは無い。


 ましてやさっき襲って来た連中は、どう見てもそこらの破落戸なんかじゃなかった。恐らく『何でも屋』に流れて行った元冒険者なんだと思う。


 これからはそういった連中を相手にするんだから。気を引き締めないとね。



◇◇◇



 見回りを終えフローラさんの部屋に戻ると、ちょうどフローラさんが風呂から上がった所だった。


「周囲に怪しい人物は居ませんでしたので安心して下さい」


「すいません、ありがとうございます」


「私もお風呂頂こうと思いますが、その間念のためフローラさんはここに居て下さいね?」


 そう言って私はフローラさんを亜空間に引っ張り込んだ。


「しばらくはここで寝起きして貰うことになります。我慢して下さいね?」


 私はキングサイズのベッドを指差した。


「えっと...なぜですか?」


「寝ている間に襲われるのを防ぐためです」


「なるほど...分かりましたが...あの...ベッドは一つしかないようですが...」


「あぁ、このベッドでかいんで二人なら余裕で寝れますよ? 女同士だし問題無いですよね? 私、寝相は悪くないしイビキも歯軋りもしないんで安心して下さい」


「い、一緒に寝るぅ~!?」


 なんだろう? 私なんか変なこと言ったかな? フローラさん、真っ赤になっちゃったんだけど?

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