第256話 間一髪
攻防は一進一退からやや我々が押され気味になって来た。
地竜の硬いウロコに手を焼いているようだ。
「くっそぅ! 硬ぇな! こん畜生め!」
「これ程までに硬いとは...」
刃が通らないらしい。アレックスさん率いる冒険者達もグレン騎士団長率いる騎士団達も苦戦している。ラウムさんも手を拱いている様子だ。
「ねぇ、アスカさん。物理が通らないなら魔法で攻撃すればいいんじゃないですかね? なんで魔道士部隊はそうしないんでしょうか?」
私はちょっと疑問に思ったんでそう聞いてみた。
「恐らく、さっきの爆発魔法で魔力を使い切ってしまったからだと思います。かくいう私もあんまり魔力が残っていません...」
「あぁ、そういうことですか」
だから物理で押し切ろうとしている訳だ。上手く行ってないようだけど。
「マズいですね...このままじゃジリ貧ですよ...」
セリカさんがそう言ったように、前線がジリジリと押し下げられている。
「アスカさん、取り敢えず亜空間に避難してて下さい」
申し訳ないけど、魔力が切れ掛かったアスカさんは足手纏いだからね。
「いえそんな...私だけが安全な場所に避難するだなんて...」
アスカさんが固辞した。まぁ確かにその気持ちは良く分かる。みんな命懸けで戦っているんだもんね。自分だけっていうのは気が引けちゃうよね。でも、
「アスカさん、ルキノちゃんのことを考えて下さい。アスカさんになにかあったらルキノちゃん悲しみますよ? ルキノちゃんを一人ぼっちにするつもりですか?」
そう、アスカさんは私達と違って一人の体じゃない。母親としてルキノちゃんを守るべき立場にあるんだよ。そのことを忘れて貰っちゃ困るよね。
「...分かりました...すいません...皆さん、どうかご無事で...」
どうやら分かってくれたようだ。悲壮な表情を浮かべながらもアスカさんは従ってくれた。
「そんな顔しないで下さいよ。私達だって死にたくないですからね。敵わないと分かったら尻尾巻いて逃げ出しますから」
私は殊更に明るくそう言った。その時だった。
「グオォォォッ!」
一際高く吠えた地竜が、今までより倍近く速いスピードで長い尻尾を振り回した。避け損なったラウムさんがバランスを崩して倒れ込む。そこに地竜の狂暴な牙が迫る。
「危ない!」
言うが早いか、セリカさんは瞬間移動してラウムさんの元へ飛んだ。そして地竜の牙が届く刹那、もう一度瞬間移動してこっちに戻って来た。
「ハァ...ハァ...ま、間に合った...」
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