第211話 緊急事態

 ロープウェイは約15分ほどで山頂の展望台に到着した。


 今日は私達以外の観光客は誰も居ない。謂わば貸し切り状態だ。


「ステラさん、山頂に着きましたよ?」


 そう言うとステラさんはゆっくり目を開けた。だがまだ私達の手をしっかり握ったまま放さない、


「うわぁ! 見て下さい! 360度の大パノラマですよ~!」


「ホントだぁ~! あの向こうに水面がキラキラ光っているのは海ですかね?」


「こっちの方は噴煙を上げている火山が見えますよ~!」


「向こうにちっちゃく見えるあれが王都ですかね?」


「あっちの方は大森林がどこまでも広がってますね~!」


 私とセリカさんがキャッキャッ騒いでいる横で、ステラさんだけは所在なげに視線を彷徨わせていた。


「ステラさん、望遠鏡がありますよ? 覗いて見ませんか?」


 少しでも恐怖症を克服できればと思ってそう進言したのだが、


「い、いえ、結構です...」


 まだ難しいみたいだ。ステラさんは展望台のベンチに腰を下ろしたまま動こうとしない。


 代わりにセリカさんが望遠鏡を覗き込む。ちなみに有料のようでコインを入れることになっているが、その金額は決まってなくて利用者のお気持ち次第らしい。中々シャレたことをしているなと思った。


「おぉっ! 凄い凄い! 良く見える~! あれは草食野生動物の群れかな? あっちはなんだろ? なにかの遺跡かな? それにしても広大に広がる大森林は凄いな~! 一体どこまで続いてるんだろ?」


 楽しんでいるようでなによりだ。ちなみに私もセリカさんの後で望遠鏡を覗いて見た。


「確かに良く見えますね~! うん? あれはなんだろ?」


 私の目は一点に釘付けになった。


「カリナさん、どうしました? なにが見えたんです?」


 セリカさんの問いには答えず、私は望遠鏡から目を離さずにステラさんに向かって叫んだ。


「ステラさん! 緊急事態です! 馬車が魔物に襲われています! 助けに行きますんで鳥の姿になって下さい! セリカさんは私の亜空間の中へ!」


「「 わ、分かりました! 」」


 ステラさんが服を脱ぐ気配がする。私はその間も望遠鏡から目を離さない。


「クエッ!」


 ステラさんの準備が整ったようだ。


「ステラさん! この方角です! どうやら森林の中みたいです!」


 私は望遠鏡の先を指差す。


「クエッ!」


 どうやら上手く伝わったようだ。私はセリカさんを亜空間に放り込んでステラさんに跨がった。


「急ぎましょう!」


「クエッ!」


 見た感じ魔物の、恐らくはブラッディウルフの群れに馬車が囲まれていた。あのままじゃ長く持たないだろう。


 私達は現場に急いだ。

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