第119話 誘拐団

 馬車と御者はナタリアさんが用意するということで、私達はナタリアさんと一緒に客席に乗っている。


「それにしても、商家の娘を狙うっていう手口が悪どいですよね」


 セリカさんがそう言って顔を顰める。


「えぇ、貴族の娘を狙わないってところが特に悪質ですよね」


「えっ!? それってどういう意味ですか!?」


「貴族を狙った場合、すぐに騎士団が出ばって来るじゃないですか」


「あぁ、なるほど...」


「カリナさんの仰る通りです。平民である私達が被害に遭っても中々騎士団は動いてくれませんからね。せいぜい見回りを増やすくらいです。だから私達はこうやって自衛するしかないんですよ」


 ナタリアさんがそう言って顔を歪めた。格差社会の弊害だよね。百人の平民より一人の貴族みたいな。私も元貴族なんで偉そうなこと言えないけどさ。


 賊にとって「裕福な平民」ってのは美味しい獲物ってことだよね。もちろん私達が護衛する限り、そんな輩の好きになんかさせないけどね!



◇◇◇



 日が暮れて来て、初日は何事もなく無事に過ぎるかと思っていた時だった。


「ヒヒヒンッ!」


 馬の嘶きと共に馬車が急停車した。来たか! 私は窓から外を覗く。賊の姿を複数確認した。


「敵襲です! セリカさん! 打ち合わせ通りに!」


「わ、分かりました!」


 セリカさんがナタリアさんを連れて瞬間移動する。私は御者の男の人に触れて亜空間に引き込む。こうして役割分担するにはちゃんと理由がある。


 私は一人馬車に残って賊が入って来るのを待つ。程無く馬車の扉をこじ開けるようにして賊の一人が入って来た。目出し帽を被って人相を隠している。


 ナイフを突き付けながらこう言った。


「動くな! 大人しくしていれば手荒な真似はしない。一緒に来て貰おうか」


 私は怯えた振りをしてブルブル震えながらコクコク頷いた。賊はか弱い女一人だからと油断したのか、特に拘束するようなこともしなかった。


 私はナイフを突き付けられ、両手を頭の上に乗せて状態で馬車から出された。


「おい! 変だぞ! 御者がどこにもいねぇ!」


「逃げやがったか!? おい! お前らは辺りを探せ! 俺はこの女をアジトに連れて行く!」


 良し。上手く行った。賊に襲われた場合、撃退するのは簡単だが、どうせなら誘拐団を一網打尽にしたいと私が提案したのだ。


 セリカさんとナタリアさんは危険だからと反対したけど、私ならすぐ逃げられるから大丈夫だと説得した。


 二手に分かれた理由は、ナタリアさんの安全を確保するのと、賊の仲間が周囲に散らばっていないかを、セリカさんに確認して貰うためだ。


 御者の男の人はすぐ殺されるかも知れないと思って先に避難させた。


 私は大人しく誘拐団のアジトに連れて行って貰うことにした。

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