第112話 もう1人の空間魔法使い

 顔を上げた少女は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていたが、とても可愛らしい顔立ちをしていた。顔拭きな? 私はハンカチを渡した。


 改めて少女を観察してみる。黒い髪に黒い瞳。体格はやや小柄で儚い印象を受ける。なんとなく冒険者というよりは、どこか良家のお嬢様といった風にも見えた。


「ふぁい...ありがどうございまふ...」


「取り敢えず場所を移動しましょうか?」


 いつまでも地べたに這いつくばっているとみんなに迷惑掛けるしね。


「ふぁい...ずびばぜん...チーンッ!」


 ...最後のは彼女が鼻を噛んだ音だ...あのハンカチはもう使えないな...



◇◇◇



 ギルドの飲食コーナーに誘ってお茶をご馳走してあげたら、ようやく彼女は少し落ち着いたみたいだ。


「...あの...ご迷惑をお掛けして申し訳ありません...私はセリカと言います。冒険者に成り立ての新米です」


「私はカリナと言います。大体の事情は端で聞いていたから分かりますが、その...大変でしたね...」


「お恥ずかしい限りです...私が無能だからみんなに愛想を尽かされちゃって...」


 セリカと名乗った少女がまた泣きそうになったんで私は慌てた。もうハンカチは無いぞ!


「あ、あの! 良かったら詳しい事情を聞かせて貰えません? 何か力になれるかも知れませんし」


「は、はい...ありがとうございます...私、空間魔法使いなんですが、魔力が弱くてみんなからずっと出来損ない扱いされていたんです...せいぜいポーター役にしかなれなくて...それも魔力が弱いから、あんまり重い荷物や沢山の荷物は運べなくて...いつも頼りにならないと蔑まれていました...」


「えぇっ!? セリカさん、空間魔法使いなんですか!? 私もなんです!」


 希少な空間魔法使いの人と会えるなんてビックリだよ!


「えぇっ!? カリナさんもそうなんですか!? 私、自分以外で空間魔法使いの人に会ったの初めてです!」


「私もです!」


 私達は二人して驚き合った。


「こんな偶然ってあるものなんですねぇ! ビックリですよ!」 


「全くです! 人生なにが起きるか分かりませんねぇ!」


 とはいえ、いつまでもビックリしてたら話が進まないので、


「あぁ、セリカさん、ビックリし過ぎて話の腰を折っちゃってすいません。続きをどうぞ?」


「あ、はい...えっと...どこまで話しましたっけ?」


「他のパーティーメンバーから蔑まれていたって所までです」


「あぁ、そうでした...」


 途端にセリカさんが暗くなってしまった。普通に考えて空間魔法使いが蔑まれることは無いと思うんだけどな...


 私は違和感を感じながら先を促した。

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