第106話 レミントン伯爵家

「...分かった...」


 イアン様がやっと頷いてくれた。そして重々しい足取りで屋敷の奥に消えた。


「...カリナさん...わ、私...」


 クリス様が目をウルウルさせている。


「心配要りません。大丈夫ですよ」


 私は安心させるように笑った。やがてしばらく経ってから戻って来たイアン様は、この世の終わりみたいな表情を浮かべていた。


「...カリナ...約束してくれ。絶対に危ないことはしないと...君になにかあったら僕は...僕は...」


「分かってます。無茶はしませんから安心して下さい」


 イアン様の紹介状を受け取った私は、


「それじゃあちょっと行って来ますね。イアン様、クリス様のことよろしくお願いします」


 殊更明るく振る舞った。


「...あぁ、分かってる...任せておいてくれ...」


「...カリナさん、どうか...どうかご無事で...」


 こうして私はイアン様の屋敷を後にした。



◇◇◇



 馬車を乗り継いで次の日にはレミントン伯爵家に到着していた。一目見て成金趣味なのが手に取るように分かって嫌な気持ちになる。


 趣味の悪い彫刻が庭に点在している。デザインに統一性もなにも感じられず、ただ金に飽かして集めただけのように見えた。


 屋敷の中はそれがもっと顕著でとにかく金ピカだった。壁紙も柱も絨毯に至るまで。良くここまで金ピカに出来るなって言うくらいで、目が痛くなってきた。


「あなたがイアン様の紹介で来たっていう護衛の人?」


「はい、冒険者のカリナと申します」


 こいつが黒幕のイレーナか。これまた一言で言えばゴージャスって感じだな。金髪縦ロールの髪型にド派手なメイク。金ピカのドレスって...だからどんだけ金ピカ好きなんだよ...目が痛ぇっての...


「フンッ! イアン様の紹介っていうから、どんだけ強そうな人かと思ったら、全然強そうに見えないじゃない! アンタ本当に強いの!?」


 イレーナが疑わしそうな目で見て来る。まぁ無理もないね。来たのがこんな小娘だったらそうなるよね。だから私は、

 

「お疑いなら試して頂いても構いませんよ?」


「フフフンッ! えぇ、そうさせて貰うわ! セバスチャンッ!」


 イレーナが声を張り上げると、熊のような大男が現れた。


「お嬢様、お呼びでしょうか?」


「この女が私の護衛に相応しいかどうかをチェックしなさい!」


「畏まりました!」


 セバスチャンと呼ばれた大男が私に迫って来る。

 

 さぁさぁ! ではでは! コイツらに空間魔法使いの力を見せ付けてやるとしますかね!

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