第86話 故郷へ

 次の日、私達は苦しんでいた。


 私は食い過ぎ、ケリー様とビリー様は飲み過ぎだ。完全なる自業自得だから、誰も責められない。だがしかし! 苦しいもんは苦しいんだよぉ...


「うぅ...お腹痛い...」


「き、気持ちわりぃ...」


「あ、頭が割れる...」


 私達が地獄を見ているっていうのに、一人だけ涼しい顔をしているイアン様は、


「...全く...情けないな...」

  

 と、深いため息を吐いてなさる。いやあんた、どういう胃袋してんだよ...私達と同じように飲み食いしてたはずなのに...


 結局この日は、終日ホテルで静養することにした。主に私達のために...イアン様、付き合わせちゃってホント申し訳ない...


 え!? なんだって!? 亜空間に入らなくていいのかだって? どうでもいいよそんなもん...魔法を展開するのも辛いわ...



◇◇◇



 次の日、やっと回復した私達は、イアン様の実家の領地であるコリンズ領を目指して出発した。馬車で約3日掛かる旅程である。 


「イアン様、結局どれくらいの期間離れていたんでしたっけ?」


「ん~...大体3ヶ月くらいかなぁ...」


「...大丈夫なんですか? そんなに長い間離れてて...」


 私のせいって訳じゃないだろうけどさ、それでもなんとなく責任感じちゃうよねぇ...


「ちゃんと連絡は取っていたから問題ない...と思ってるよ...」


 あぁ、やっぱり...希望的観測が入ってるよ...大丈夫なのかな...

 


◇◇◇



 その後の3日間は特に何事もなく過ぎて、私達はコリンズ領に入った。やがて見慣れたイアン様の屋敷が見えて来る。そんなに時間は経っていないはずなのに、なんだか懐かしい気がした。


「お疲れ様でした。無事到着できて良かったです」


「カリナ、色々とありがとう。君のお陰で帰って来れたよ」


「では私はこれで失礼します」

 

「えっ!? 寄ってってくれないのかい? 僕の両親も君に会えるのを楽しみにしてると思うんだが...」


「イアン様? お忘れですか? 私はここに居ないはずの人間なんですよ?」


 目立ったりしたらマズいんだよ?


「あぁ、そうだったね...寂しくなるがどうか元気で...」


「はい、イアン様も。ケリー様とビリー様もお世話になりました」


「元気でな」


「また一緒に旅しようぜ」


「さようなら~!」


 こうして私はイアン様達と別れた。この後は故郷に帰ってまずは母のお墓参りに行く予定だ。


 久し振りの故郷。母との思い出以外、楽しいことは何もなかったけど、それでも故郷は故郷だ。


 私は故郷行きの馬車乗り場に向かって歩を進めた。

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