第85話 祖国への帰還

「はい、カリナ」


 イアン様が『ロボ』の体から獲れた魔石を渡して来た。ちなみに血みどろだった所を、イアン様が水の魔法でキレイに洗い流してくれた。


 氷を扱えるなら水もお手の物なんだね。ケリー様とビリー様の体もある程度キレイにしてあげてた。さすがに服にこびり付いた血は洗い流せなかったみたいだけど。


「えっと...私が貰っちゃっていいんでしょうか...」


「当たり前だろ? カリナが倒したんだから。冒険者として当然の権利だよ。遠慮することはない。寧ろ遠慮しちゃいけないと思う。これからも冒険者として生きて行くのであればね」


 う~ん...確かにそうなんだろうけど...なんだろ? この釈然としない気持ちは...申し訳ないと思う気持ちは...


「じゃあこうしません? この魔石を売ったお金でみんなでパァーッと派手に行きましょうよ! 飲めや歌えや踊れや騒げやってな感じで!」


「いいのか!?」


「ゴチになりやす!」


 良し良し。ケリー様とビリー様は食い付いた。


「カリナはまだ飲めないだろ...」


 イアン様の冷静なツッコミが入った。


「そこはまぁノリで言っただけで、飲めない分たらふく食いますよ!」


「本当にいいのかい?」


「いいんです! だって私には解体とか洗浄とか出来ませんもん! ほらアレですよ、チームプレーってヤツです! みんなして役割分担したんだから、報酬もみんなして分かち合うべきなんですよ!」


「はぁ...分かったよ。カリナがそれでいいなら...」


 そう、なんとなくスッキリしない感じがしたのはこれだったんだよ。私一人だったら魔物を解体して魔石を獲ろうなんて思いもしなかったもん。


 だから私一人が独占するんじゃなくて、みんなと分かち合った方がいいんだよ。幸いなことに、お金には困ってないからね。


 パァーッと行っちゃおう! 宵越しの銭は持たねぇ!

 


◇◇◇


 

 その後は特筆することもなく、無事に国境の町ヘインズに到着した。私にとっては元母国、いやこれからは祖国と呼ぶことにしよう。祖国への帰還を果たした訳だが、特にこれと言った感慨は無い。


 そもそもが、国を出てからまだ三ヶ月も経ってないんだから当然なのかも知れないけどね。


「お帰り、カリナ」 


「え~と、ただいま!? なんか変な感じですね」


 イアン様にそう言われた私は苦笑するしかなかった。


 その後、冒険者ギルドで魔石を換金した。結構な高額だったのでビックリした。なお魔石と一緒に獲った『ロボ』の牙と爪は、それぞれケリー様とビリー様に解体の報酬として渡した。こちらも結構な値段になったそうで、お二方ともホクホクしていた。


 その日の夜、私達は町で一番高いレストランでめっちゃ豪遊した。一番高いメニューをバンバン頼んだり、一番高い酒をジャンジャン注文したり。


 そして気付いたら一晩で魔石のお金を使い切っていた。


 まさか本当に宵越しの銭が無くなるとは思ってなかったよ...




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