第82話 狼再び
このただっ広い平原は『戦場が原』と言うんだそうな。
ケリー様に教えて貰った。何気に物知りな人である。私達はその『戦場が原』に入る手前で小休止していた。
「カリナはここでアクセル王子に出会ったんだっけ?」
「はい、狼の群れに襲われている所を助けたのが縁の始まりでした」
今となっては懐かしい思い出だね。もっとも、あれからそんなに時間が経ってる訳でもないんだけどね。
「そうなのか。実は僕らも狼に襲われたんだ」
「えっ!? 大丈夫だったんですか!?」
イアン様達も!?
「あぁ、僕の魔法で片付けた」
「あれは凄かった...」
「一瞬で全てが凍り付いたもんな...」
ケリー様とビリー様が遠い目をしている。
「そ、そうなんですね...」
イアン様さすがだわ。
「さて、出発しようか」
こうして私達は再び『戦場が原』に足を踏み入れた。
◇◇◇
「イアン様、囲まれました」
『戦場が原』に入ってものの30分もしない内に、またもや狼どもに囲まれた。いやこれエンカウント率高過ぎだろ!? ここってどんだけ狼居るんだよ!? 必ず遭遇する仕様かなんかなのか!? まぁ愚痴っても仕方ないのは分かってるんだけどさ...
「みんな、下がっていろ!」
「ちょっ!? イアン様! そんなに前に出たら!」
私は慌てて引き留めようとするが、イアン様は「大丈夫!」と一言だけ言って魔法を展開した。次の瞬間、イアン様の体から冷気が溢れ始め、周りを囲んでいた狼どもを全て凍らせた。私は呆気に取られるしかなかった。
これが範囲攻撃魔法か...実際目の当たりにすると凄い威力だな...術者の魔力の高さもさることながら、魔力をコントロールする術にも長けていないとこうはならないだろう。
「イアン様...お見事です...」
私はただひたすら感心するのみだった。話には聞いていたがこれほど凄いとは...
「いやぁ、それ程でも」
イアン様が照れてる様子ってのもレアな光景だなって思いながら、狼どもが片付いたんで、馬車に戻ろうとした時だった。
どこからか刺すような強力な殺気を感じた。
「イアン様!」
刹那、私は急いでイアン様に触れて亜空間に放り込む。続けて呆然としているケリー様とビリー様も同様に放り込む。
「か、カリナ!? 一体何が起こったんだ!?」
イアン様が聞いてくるが、悪いけど答えている暇がない。私は馬車と二頭の馬も亜空間に放り込む。全てを亜空間に収納し終えた直後、それは現れた。
「ウオォォォンッ!」
全身が真っ黒な毛に覆われた巨大な狼が大きな口を開けて咆哮した。
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