第68話 アーモンド臭

 アクセル様は私とイアン様を会わせたくなかった?


 なんでだろう? 私がイアン様に絆されて、元母国に帰ると言い出すとでも思ったから? だとしても門前払いするのはいくらなんでも酷くない? アクセル様に何か特別な理由があるとか?


 ダメだ...考えが纏まらない...私は無意識にすっかり冷えたお茶を口に運ぼうとして...そこで固まった。これはアーモンド臭! 私はすぐにお茶のカップを亜空間に送った。


 いきなり私の手元からカップが消えたのを、ビックリした顔で見詰めるイアン様に、


「イアン様、このお茶を飲んではなりません。アーモンド臭がします。恐らくシアン化カリウムかと」  


 そう言って私は、イアン様の分のカップも亜空間に送った。


「な、なんだって!? い、一体誰がそんなことを!?」


 騒ぐイアン様に「シーッ!」と指で合図しながら、私はそっと部屋のドアに近付き勢い良くドアを開けた。


「ヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ!」


 さっきお茶を入れて下がったはずの侍女がそこに居た。どうやら経過を観察していたらしい。ビックリして腰を抜かしたらしい侍女を、バインドロープで拘束し部屋の中に入れる。


「さて、誰に命じられたのかな?」


 私は侍女の首元にレイピアを突き付けて詰問する。


「ヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ! おた、お助けを...」


「言いなさい!」


「み、ミネルバ様ですぅ~! ミネルバ様に命令されましたぁ~!」


 侍女が泣きながら白状する。


「私に毒を盛れって指示されたの?」


「ど、毒!? い、いいえ! いいえ! ミネルバ様は媚薬だって言ってましたぁ~!」


 侍女は必死に首を横に振った。


「媚薬だって!? まさか!?」


 イアン様が急に懐を探り出した。そして小さな薬瓶を取り出す。 


「それなんですか?」


「...ミネルバ嬢から渡されたものだ...彼女は即効性の媚薬だと...」


「隙をみて私のカップに入れるように言われたんですね。ちょっと拝見」


 私はイアン様から薬瓶を受け取り、瓶の蓋をほんの少し開けて匂いを嗅いでみた。


「アーモンド臭がします。きっと私を毒殺した後、その罪をイアン様に着せるつもりだったんでしょうね。イアン様、あなたはミネルバに騙されたんですよ」


「なんてことだ...」


 イアン様は膝から崩れ落ちてしまった。私はまだグズグズ泣いている侍女を亜空間に送って、


「イアン様、ミネルバはどこに居ます? 捕まえないと。どこで落ち合う予定なんです?」


「あ、あぁ、教会を出てすぐの所にある噴水の側だ...」


「行きますよ? ミネルバを放置する訳にはいきません」


 私は未だ放心状態のイアン様を無理矢理立たせて、教会を出たのだが...


「あら? まだ生きてたの? しぶとい女ね。ゴキブリみたい」


 ミネルバが待ち構えていた。

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