第64話 舞踏会当日
舞踏会当日の朝、早目に起きるとドアの下に手紙が挟まっているのが見えた。
なんだろう? と思って中を見てみるとそこには...
「えっ!? この筆跡はまさかイアン様!?」
婚約者だった頃、何度も手紙でやり取りした。見間違うはずがない。これは確かにイアン様が書いた字だ。なんでこんな所にイアン様からの手紙があるんだ? 私は混乱した。
内容を確認して今度は困惑した。要は手紙に同封された場所まで一人で来て欲しいと。その際、くれぐれもアクセル様には内密にと。そんな内容だった。
怪しい...どう考えても怪し過ぎる。まず第一に、なぜイアン様が他国の王宮に来ているのか? 第二に、アクセル様へ内緒にするのはなぜか? そして第三に、舞踏会当日というタイミング狙ったのはなぜか?
疑問は尽きないが、まずはアクセル様に相談しようと思ってふと気付く。アクセル様は昨夜から離宮に泊まり込んで国王陛下、王妃殿下と一緒に、今夜の舞踏会に関する打ち合わせをしていた。
陛下の病状は幸い安定していて、書類仕事など一部の公務には復帰したが、如何せん長い間寝たきりだった為、体力が回復していない。
その為、アクセル様とアッシュ殿下が今夜の舞踏会で陛下の代わりを務める訳だが、出席者の挨拶の順番をどうするかだとか、誰と誰をどう配置するかだとか、派閥間の調整を含め細々とした段取りを陛下と相談して決める為、昨夜から離宮に詰めているのだ。お疲れ様と言うしかない。
そのアクセル様の手を煩わしたくないというのと、指定された時間までもう間がないということで、迷った末に私は『すぐ戻ります』とメモを書いて出掛けることにした。
もうすぐやって来る侍女軍団にはこれで話が通じるだろう。それから、何が待ち構えているのか不安なので、取り敢えず武装して行くことにした。レイピアを腰に差して出発する。
◇◇◇
王宮の地図に丸が付いていた待ち合わせ場所は、王宮内にあるこじんまりとした教会だった。王宮の使用人などはここで式を挙げる人が多いと聞く。
警戒しながら中に入る。誰も居ない? と思ったら、祭壇の辺りに人影があった。
「あぁ、カリナ! ようやく会えた! 会いたかったよ!」
「イアン様...」
確かにイアン様本人だ。最後にお会いした時より若干痩せただろうか? イアン様が満面の笑みを浮かべてハグしようとしてくるのをちょっと後ろに下がって遠慮する。
途端にイアン様の顔が悲しみに包まれるが、今は構ってられない。
「どうしてこんな場所に? どうやって入ったんですか?」
「あぁ、それはね、協力者が居るんだよ。その人に連れて来て貰ったんだ」
協力者? 途轍もなく嫌な予感がする。
「どなたか伺っても?」
「公爵令嬢のミネルバ様だよ。アクセル王子の元婚約者の」
やっぱりミネルバか...どこまでも絡んで来る蛇のようにしつこい女だな...元もなにもアクセル様の婚約者だった過去はねぇし。騙ってやがんな。
「立ち話もなんだし、場所を変えないか? 奥の控え室を抑えてあるんだ」
私はとっても帰りたくなったんだが、このままズルズルとまたミネルバに振り回されるのも嫌だし、決着を付けるためにも行くしかないかと腹を括った。
思わずレイピアを握る手に力が入った。
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