第58話 アクセルの憂鬱

 その日も俺は執務室で書類仕事をしていた。


 パコーン...パコーン...パコーン 


「エイッ!」


 ...俺は報告書を見ながら「フウッ」とため息を吐いた。ミネルバが別邸に、カリナの元婚約者イアンを囲っているのは分かっているが、何を企んでいるのかまでは分からない。


 爆弾犯とその後の襲撃犯との関与が否定された今、ミネルバを拘束しておくことも出来ない。他国の貴族を家に招いているというだけでは罪に問えない。


 ヘタに騒ぐと外交問題に発展しかねないので、強引な手段も取れない。結果、監視しているしかない状況というのがなんとも歯痒い。


 パコーン...パコーン...パコーン 


「ハァッ!」


 ...ウィラー侯爵の方は泳がせてるが、まだキスリング公爵とも兄上とも接触している様子は無いと聞く。もっとも、手紙でやり取りしているのかも知れないし、さすがに手紙までは検閲する訳にもいかない。そんな権限も無い。


 侯爵がなにか動き出すまでは静観するしかないんだが、兄上の派閥の連中が、なにやら不穏な動きをしているという情報も入って来ている。こちらも余談を許さない状況だ。


 パコーン...パコーン...パコーン 


「ヤァッ!」


 ...さて、次の書類を....うん? これは...ウインヘルム王国の国王フレデリック陛下からだと? なんだって国王が自らカリナの安否確認を? あのイアンってヤツが連絡したのか? これはさすがにマズいな...シラを切ったら後々面倒なことになりそうだ...どうするか...


 良し! 色ボケ親父にぶん投げよう! 病状も回復したことだし、公務に復帰させよう! あとは国王同士で上手いことやってくれ! 頼んだ!


 さぁ、次の書類を...


 パコーン...パコーン...パコーン 


「ダァァァッ! もうっ! カリナ! いい加減にしろ! 集中できねぇだろ! 人の背中を使ってスカッシュやってんじゃねぇ!」


「え~...いいじゃないですか~...紙クズ投げるの飽きちゃって~」 


「だからってスカッシュやるこたぁねぇだろ! っていうか、鍛練よりスカッシュの方が目的になってんじゃねぇのかぁ!? ああん!?」


「ギクッ!」


「今、ギクッって言ったか!? おおっ!?」


「ソ、ソンナコトアリマセンヨ」


「おいごらぁ! ちゃんと目を合わせて話せやぁ!」


「ぴゅーぴゅー」


「...明日から課題を倍に増やす」


「そんな! 酷いです! 権力横暴! 圧政打倒! 安全運転!」


「やかましいわぁ! 最後の意味分かんねぇよ!」


 こうして今日も1日が過ぎて行く。平和なのはいいことだが、俺の胃がシクシクするのは気のせいだろうか...


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