第29話 悪役令嬢

「言い掛かりは止めて下さい。事実は全く逆です。突き落とされそうになったのは私の方です。それを避けたらあの侍女さんが勝手に落ちて行ったんです」


「なっ!? あなた、私の侍女がウソを吐いていると言うの!?」


「その通りですがなにか?」


 事実そうだからね。


「ウソを吐いてるって証拠でもあるって言うの!?」


「逆にお聞きしますけど、私が突き落としたっていう証拠はあるんですか?」


「だから! 私の侍女がそう証言したって言ってるんじゃないの!?」


 やれやれ...バカと話してると疲れるわ...


「お話になりませんね。当人がそう言ってるってだけで他に証人は居ないんでしょう? 全く説得力ありませんよ?」


 あの時、周りには誰も居なかったからね。


「あ、あなた、開き直る気?」


「そんなつもりはありませんよ。事実を述べたまでです。ところで、ちょっと確認したいんですが、あの侍女さんってミネルバ様付きの侍女さんなんですよね? 道理で見覚えが無い顔だと思いましたよ」


「そ、それがどうかしたの!?」


「どうしてあの時間、あんな場所に居たんですか? ミネルバ様が王子妃教育を受けてらっしゃる場所からかなり離れていますよね?」


 図書室の前だったからね。私の後を尾けてたってことなんだろうけど。


「そ、それは...そ、そう! ついうっかり道に迷ったって言ってたわ!」


 はい、うっかり頂きました♪


「うっかりですか。それは奇遇ですね、ミネルバ様。私、今日だけで3回も侍女さんのうっかりで危うく大怪我をするところでしたの」


「そ、そう? それは大変だったわね...」


 プークスクス♪ 動揺してる♪ 動揺してる♪


「えぇ、1回目は植木鉢を投げ付けられ、2回目は熱々の飲み物を掛けられそうになり、3回目は百科事典を落とされましたの。幸い全て大事には至らなかったのですが、その3人のうっかり侍女さん達も全員見覚えが無い顔でしたの。ミネルバ様、なにかご存知ありませんか?」


「な、なんでそれを私に聞くのよ!? 知らないわよ!」


「そうなんですか? うっかり侍女さん繋がりで、てっきりミネルバ様の関係者かと」


「あ、あんた! 私をバカにしてんの!?」


 プークスクス♪ 今頃気付いたおバカさん♪


「いえいえ、とんでもない。それよりミネルバ様、先程からお言葉が乱れておりましてよ? ミネルバ様ともあろうお方が淑女として恥ずかしいんじゃございませんこと? オーッホホホッ!」


 一度やってみたかった悪役令嬢笑い! いやあ、やってみると気持ちいいもんだね♪


「あ、あんた! 覚えてなさいよ!」


 三下が吐くような捨てセリフを残して、来た時と同じように挨拶も無しにミネルバは出て行った。いやこれ不敬に値するんじゃないの!?


「プハハハッ! いやいやお見事! プハハハッ! ヒィヒィ! く、苦しい...」


 アクセル様、笑い過ぎだよ...

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