第26話 王宮での日常

「あの...人間関係は良く分かりました」


 私はなんとかそれだけを口にした。そしてこの重苦しい雰囲気に耐えられず、私は少々強引に話題を変えることにした。


「と、ところで、カイル様とアラン様のお姿をお見掛けしていないのですが、あのお二人は今どちらに?」


「あぁ、あの二人はそもそも近衛騎士なんだ。俺の専属という訳じゃない。王宮から外に出る時には、俺が必ず護衛に指名しているが、普段は王宮の警備を担当しているんだ。今も勤務中だろう。俺の専属はカリナだけだよ」 


「そうだったんですね...それはまた責任重大というかなんというか...」


「そのために俺の隣の部屋を用意したんだからな。しっかり頼むよ?」


「へっ!?」


 思わず目が点になってしまった私は悪くないと思う。だってアクセル様の隣の部屋ってことは...


「そそそそれって王子妃のお部屋じゃないんですか~!?」


「そうだが?」


 そうだがじゃねぇよ! なにサラッと当然みたいな顔して言っちゃってんのこの王子は! 道理でやけに広いと思ったよ! 調度品も豪華だと思ったよ! ベッドがバカでかいはずだよ! お姫様の部屋だったよ!


「わ、私如きが使わして貰うなぞ恐れ多いことではないのでしょうか...」


「カリナが言ったんじゃないか? 俺が側に居ないと守れないって。そうしたまでだが?」


「た、確かにそう言いましたが...」


 クソッ! 反論できねぇ!


「ちなみに扉一枚で俺の部屋と繋がってるから」


 もう勘弁して! 大体どの扉だよ! あの部屋、扉が多くて分かんねぇよ!


 アクセル様との夕食を終えた後、速攻部屋に戻って扉を確かめたのは言うまでもない。



◇◇◇



「おはよう、カリナ。良く眠れたかい?」


「えぇ、まぁ...」


 実際はベッドが大き過ぎて落ち着かなくて良く眠れなかったんだけどね...


「今日は朝一から閣議がある。その間、カリナの護衛の仕事は無いから、今の内に王宮の地理を把握しておくように」


「分かりました」


 閣議とは大臣や閣僚、官僚らが集まって行う、国の重要事項を決定するための会議だ。当然ながらトップシークレットなので、たかが護衛の私は入室を許可されない。


 その間に私は、地図を片手に王宮の地理を頭の中に叩き込んでいく。護衛対象が危険に晒された時、逃がす際の逃走経路を把握しておくためだ。


 もっとも、空間魔法を使える私には必要ないが。ただ、自分が迷ったりしないためにしっかりと覚えていく。図書室、会議室、貴賓室、食堂などを見て回り、中庭に差し掛かった時だった。


 ガッシャーン!


 私がたった今まで立っていた位置に、私の頭より大きな植木鉢が落ちて来たのだ。何事!? って思って上を見上げると、


「キャアアッ! ゴメンなさい! 私ったらついうっかり! お怪我はありませんでしたか?」


 そう言って申し訳なさそうな顔をして謝っているのは、顔に見覚えのない侍女だった。


 頭に直撃していたらヘタすりゃ即死だったろう。仕掛けて来たな。だったら思い知らせてやろう。空間魔法使いにケンカを売った愚かさを。

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