第15話 それぞれの事情

 今、私はオスマルク王国の王都、へルンに向かう馬車の中に居る


 ヘルンまでは3日掛かる旅だそうだ。オスマルク王国は我が母国...いやもう元母国か...ウインヘルムて比べて、国土も国力も倍以上ある大国だ。


 ウインヘルムより北方に位置しているため冬の寒さは厳しいが、それを補って余りあるほど肥沃な大地が広がり、大穀倉地帯を形成している。農業がこの国の根幹を支えている。


 それに加えて鉱物資源も豊富で、あちこちに鉄や銅、金や銀のなどの鉱山があり、こちらも国の重要な基幹産業になっている。


 つまり一言で言い表すなら、とても豊かな国ということである。その国の王宮がキナ臭いとなれば一大事だろう。


「アクセル様、先程のキナ臭くなりそうの詳細をお聞かせ願えますか? アクセル様の護衛をする上で聞いておく必要があると思います」


「あぁ、確かにそうだな...実は現国王、つまり俺の父上だが、病に伏せっていてな。もう余り先が長くない。それで後継者問題で揉めてる」


 良くある展開だな。


「それは...お気の毒です...国王陛下は後継者を指名なさらないんですか?」


「まだ決めかねてるってところだ。順当にいくなら俺の兄上が継ぐべきなんだが、兄上は第一側妃の息子なんだ。俺は正妃の息子で腹違いの兄弟なんだよ」


 これまたベタな...


「なるほど...それでアクセル様を推す声が大きくなると...」


「そういうことだ。オマケに俺と兄上の思考は正反対でな。兄上は野心家で俺は保守派。どちらも相容れない」


「野心家というと...まさか...」


 イヤな予感が...


「あぁ、その通りだ。兄上は有り余る国力を生かして南下しようとしている。戦争を仕掛けてでもな」


 私は思わず絶句してしまった。だって南に位置する国と言えば...


「まぁ、兄上の気持ちも分からんでもない。この国の冬は厳しくて長い。凍り付かない土地を欲しがるのも無理はない。だが俺は、戦争を仕掛けてまで欲しいとは思わない。なぜなら、どちらが勝ってもお互いの国土は荒れ、復興するまでに時間も金も掛かるだろう。それに戦費が加わるんだ。今ある余剰分なんざ全部ふっ飛んでしまう。そんなことするくらいなら、内需に回して冬の寒さ対策を充実させた方がよっぽど効率的だ」


「...私もそう思います。アクセル様を全面的に支持します」


「ありがとう。その...やっぱりまだ母国のことは気になるよな...」


「えぇ、まぁ...未練はありませんが、戦争になるのはちょっと...」


 その時、私の脳裏にはイアン様の優しい面影が浮かんでいた。元家族がどうなろと知ったこっちゃないが、彼だけは危険な目に合わせたくない。そう思っていた。


「だよな...君のためにも兄上の野望は阻止してみせるよ」


「ありがとうございますっ!?」


 その時、馬車が急停止した。


「何事だ!?」


「殿下! 魔物です! 魔物が現れました!」


「なにい!?」


 私は急いで馬車から降りる。あれはオーク。豚頭人身の化け物の群れがこちらに向かって来ていた。

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