第16話
wolf and sheep 5
モートは今まで一度も寝たことがなかった。
ヘレンが旅に出掛けた後。狩りを終えると、ノブレス・オブリージュ美術館のサロンの質素な椅子に座り。一人でずっと考え事をしていた。
モートは昨日に七つの大罪と世界の終末のことを初めて知ったので、その事について深く考えていた。
今は早朝の6時。
後、2時間くらいでアリスが迎えに来るだろう。
天使のオーゼムの言った七つの大罪は、モートにとっては全くの盲点だった。七つの大罪は黒の魂が関与することの根本的な部分だったのだ。
今日の深夜に狩ったものたちは、長い年月によって、あるものは姦淫。あるものは激怒。あるものは怠惰など皆、魂が黒くなっていたのだ。
世界の終末は運命なのだろうか? けれども、ここホワイト・シティでは当然受け入れられないが、遠い国からはあらゆる犯罪が流入している。どのみちこの街は滅びる運命だったのだろう。しかし、遠い国にはヘイグランドのような良き若者もいる。世界の終末を避けるには、さすがに世界は広いだろうが、遠い国からの犯罪だけに目を光らせることが肝要だった。実際、今回の狩りの夜には遠い国からの麻薬などの中毒者も大勢いたのだ。
今ではモートの盲目的な人生は少しは明るくなってきていた。
考え、いや、方向性が。自分が何を狩ればいいのかという基準が……まるで荒波の航海の中で一つの灯台を見つけたかのように、理解できるようになったのだ。
モートは自然と微笑んでいた。
しばらく世界の終末や七つの大罪のことを考えていたが、モートはハッとしてポケットの中の懐中時計を見た。
アリスが来る時間だ。
そのうち、着飾った人々や使用人たちが、ここノブレス・オブリージュ美術館に集まる時間にもなるだろう。
モートは懐中時計を仕舞い。素早く大学へ行くための準備をした。
ノブレス・オブリージュ美術館の正門の前でモートは佇んだ。アリスはすぐに見つかった。ちょうど道路の反対側にある路面バスから降りてくるところだった。
アリスはいつも通りの表情をしている。
魂の色も青色で、それは普通を表していた。
いつもの灰色の空から、コンクリートをとめどなく埋めてしまう雪が舞い降り、厳しい寒さはすでに日常へと溶け込んでいた。けれども、温かな人々の心が見え隠れするこの街で。
きっと、アリスもこの街が好きなはずだ。
そう、モートは考えた。
信号が青になったので、アリスは横断歩道を渡ってきた。行き交う車は、毎日の大雪に辟易しているのだろうか? だが、街の人々はいつも雪を大切にし、自慢をしていた。
「おはようモート。昨日は大変だったでしょう? けど、よく眠れたようですね。いつもと変わらない顔ですよ」
アリスは微笑んでいて、いつも素敵な声をしてくれる。モートはアリスの手を取り、聖パッセンジャーピジョン大学へと二人で歩いて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます